ある意味ではソロ挑戦④
片道60㎞は、歩きだと遠い。
魔力で身体能力を強化してもモンスターへの警戒は怠れないし、道中の戦闘で時間を消費するし、言うほど早く移動はできない。
ゲートに近付くにつれモンスターが弱くなっていったからまだマシだったが、それでもたどり着くまでに10時間近くかけてしまった。
ダンジョンから出ようとしたその一瞬。
ダンジョンの奥、その向こうからナニカがこちらを見た気がした。
背中が感じたとても強い、これまで感じたこともないプレッシャー。
しかし気配を感じただけ。
俺たちは全員無事に“外”へと戻ってきた。
今日は早くからダンジョン入りしたので、夜までには帰ってこれた。
「死ぬかと思った」
あぶねーコンビの刑事ではないが、全員が生き残れたのは、俺たちの成長と事前の準備が有ったからというのも確かだが、最後は運が良かったからだと思う。
こちらの能力が環境とかみ合わなければ、死んでいたかもしれない。ゲートから遠く離れたところに飛ばされ、吹雪という過酷な環境で未知のモンスターと戦わねばならないというのは、それだけ過酷な条件である。
これまで何十人もの冒険者を殺してきたラスダンを、俺は甘く見ていた。
犠牲を出さずに帰ってこれて良かったよ。
「一文字! 帰ってこれたのか!!」
俺たちは休まず移動したけど、帰ってくるまで半日近くかけている。
それなのに、九条さんはずっと俺たちの帰還をずっと待っていた。
帰りが遅くなって心配をかけてしまったよ。
そんな俺たちを最初に出迎えたのは、フル装備の九条さんだ。
「いったい中で何があった? なぜすぐに戻ってこれなかった?」
当初の取り決めでは、ダンジョンのゲート近くにタイタンを一体配置し、定時連絡をする予定であった。
それなのにダンジョンに入ったまま戻ってこなかったことから、中で何かがあったことはすぐに推測できる。
この情報はすぐに伝わったようで、九条さんは駆けつけてきた。
それで九条さんが追って中に入ってくる事こそ無かったが、それでもずっとダンジョンの前で待っていたのである。
これは後で聞いた話だが、九条さんがここにいるのは、俺が中で何かやらかし、スタンピードを引き起こした時の備えでもあったらしい。
どれぐらい待たねばならないか分からなかったため、他の冒険者も緊急招集がかけられていたとか。
いや本当にご迷惑をおかけしました。
「無事でしたか!? っ!? 何ですか、この冷気は!」
「一文字君、心配したのだよ! 冷たい!?」
また、連絡を受けて教授たちもゲート前に来ていた。
危険はあったが、それでも心配だったからと、二人ともここに詰めていた。
近くに心配してくれる人がいるというのはありがたいよね。ちょっと嬉しい。
ただ、及川教授は踏みとどまれたが、四宮教授は俺のバトルクロスに触れてひどい目に遭ってしまったよ。
俺たちは吹雪の中を移動していたのでかなり冷たくなっていて、触っただけで痛いぐらい冷たいみたいだ。さすがに皮膚が貼り付いて離れなくなるほどではなかったけど、不意打ちだと驚くよね。
ちなみに九条さんは鍛えられているから大丈夫だった。
けど、この二人は一般人の範疇だからしょうがないね。
それと、ここには他にも医療スタッフなどが待機していた。
……それと、こちらを警戒、観察する一団もいるよ。
「極度の低温状態? ダンジョン内の気温は25度前後のはずでは?」
「そういった魔法を使うモンスターは確認されていませんね。逆に、低温に弱いモンスターばかりだったはず」
「興味深いな。が、全員無事で戻ってきたという事は、こちらの出番はなさそうだな」
「そもそも彼らはほぼロボットだろう。我々の出番など、ハナから無かっただろうに」
見た感じ、こちらを心配している風ではない。ただ仕事だからこの場にいるといった雰囲気だ。
ついでにこっちの観察とかをしているし、放っておけばいいかな。
それよりも、中で何があったのかを説明しよう。
ラスダン攻略に向けて一歩前進したかもしれないんだからさ。




