要求は通らず
今回の探索が終わったのは、期間を決めてから5日後の昼過ぎであった。
「ラスダンを普段から探索したい……。
正気か?」
ラスダン最奥に到達したその日のうちに、俺は九条さんに一つの相談をしていた。
ラスダンを常時探索できないかという相談だ。
「まぁ、そこまで深く踏み込まなければ大丈夫ですよ。普段よりもモンスターが多くなるんでしょう? 無茶はしません。
ただ、うちの連中も育っているので。適正レベルのダンジョンで戦わせたいだけなんですよ」
それを言った後の九条さんは、完全に狂人を見る目でこちらを見た。
それだけ、ラスダンでは単独探索をするのが危険だったからだ。
ラスダンの単独探索が危険な理由は単純だ。
単純に、連戦を強いられるからだ。
通常は多数のパーティをぶち込み、いろんな所で戦わせている。
そうすることでダンジョンが用意するモンスターを分散させ、一つのパーティが受け持つモンスターを減らせることが分かっているからだ。
逆に少数であれば、一つのパーティが受け持つモンスターの量が増えて負荷が高まる。
奥を目指すのであればモンスターのポップ数が一定なら、投入された冒険者でそれを頭割りし、戦闘による負荷を減らすのは理に適っている。
だが俺は奥に行くのが目的ではなく、ドラゴンとかと戦えればそれでいいという考えで動いているので、特に問題は無いと考えている。
むしろモンスターを独り占めできる方が都合が良く、ありがたいとさえ考えていた。
「駄目だ。それで今まで、いくつものパーティを失っている。
俺はお前らを気に入っているんだよ、一文字。お前を死なせたくはない。お前のお仲間も、居なくなられてちゃ困るんだよ」
「リスクは最大限、減らしていくつもりで考えていますけどね。そこまで難しいことですか?」
「お前と同じ事を考えた奴は大勢居るんだよ。そして、帰ってきた奴は誰も居ない。
おそらくだが、少数パーティだけで攻略しようとした場合は、特殊な何かが出てくるんだろうよ。最低でも20人以上は同行者がいないと、許可は出せない。
それがルールだ」
「それはそれで、興味があるんですけどね。
あ。でも、俺って三人娘にタイタンたちで20人以上になりますよ。ほら、大丈夫じゃないですか?」
「あいつらはまだ、一人二人と数えられるか分からねぇだろうがよ」
ただ、俺の要求は一蹴された。
リスクがデカすぎるという。これまたシンプルな理由で。
説得のために俺はちょっとだけ頭を悩ませ、根拠の無い推論を思いつく。
もしかしたら、ラスダンは投入された人数によって、ダンジョンの奥が遠のくシステムだとか。
もしくは、少数パーティで挑戦した時のみ、ボスが出てくるとか。
無い、とは言い切れない。
ダンジョンはゲームではなくバランス調整などされていないが、まったくゲーム的でないとも言えない部分がある。
例えば奥に進むほどモンスターが強くなる、最奥にボスがいるなどはその最たる例だろう。
あのモンスター大発生のような、特殊行動によりイベントが始まるというのも、ゲーム的なシステムだと思う。
下手をすると、あのモンスター大発生のラストにボスが出てくるとか、そういった可能性もあるんだけどね。
ウェーブ制のバトルで、いくつものモンスターラッシュを退け、最終ウェーブにボスが出てくるとか、そういうの。
そっちの可能性は横に置き。
思いつきの推論を使い、九条さんに試してみるかどうかを提案してみた。
「……その可能性はもう指摘されている。
だが、これまで誰一人として帰ってきてない事実にも目を向けろ。
もしも、逃げられるようであれば、誰か一人ぐらいは逃げ帰ってるはずだ。だが、それが無い。
分かるか? 分かるよな。
“逃げられない”“生き残れない”可能性がデカすぎるんだよ、ラスダンの単独探索は」
九条さんは根性論で無茶をするタイプの人だが、無茶をさせるタイプの人ではなかった。
その無茶をする時でさえ、最低限のリスク管理をしている人だった。
ラスダンに俺を誘った時、まだ力が足りなかった俺が強くなれるように手配をするとか、「期待はしても現実に即している」行動を選べる人だ。
直感的な話だけど、俺はラスダンに単独で挑んでも大丈夫だと思う。
だけど、根拠の無い推論と勘だけで九条さんは説得できない。
それこそ、単独で九条さんを下せるぐらいの実力でも無ければ、言葉に説得力が足りないのだろう。
付き合いのある冒険者を動員したとしても、あちらにも生活があり、ダンジョンだけで生きていけない。
あと、動員された冒険者にリスクを背負わせるのは無理がある。死んでも構わないとか、そういう扱いは出来ない。
ままならないなと、俺はこの場で要求を通すのを諦めるのだった。




