最前線+九条さん②
高レベルなロボットの有用性に驚いている九条さん。
その育成に数年しか懸からないと知ると、人間を頼るより、ロボットを優先的に育てていくことを検討しだした。
「人間なんて、いつかは老いて死ぬだろ。
だが、ロボットは大事にすれば死なん。ずっと生き続ける。戦い続けられる。
それに何より、任せられるのが良い。昨今の若いのなんて、ラスダンに行こうなんてまず考えねぇからな。来ても奥を目指す気概が足りん。根性が無ぇ」
九条さんは自分の後継者、後釜になれる冒険者を探していた。
俺はそのお眼鏡に適い、ラスダンに誘われてここに居る。
だけど、そうやって声をかけた冒険者はもっといて、そのほぼ全員が誘いに乗らなかった。俺は例外だった。
そうやって挑戦しない若手に苦労している九条さんにしてみれば、文句を言わずに付いてきてくれるロボットはかなり魅力的に映るのだろう。
若手にも、若手の言い分がある。
リターンが大きい仕事でもリスクを抱えて破滅するより、リターンが小さくてもリスクのない生活をした方が良いっていう人が多数派なのは間違いない。
起業をするより社員になろうとする人の方が多いのがその証拠だ。
金持ちになりたければ、どこかの大企業の社員を目指すなんて馬鹿な選択だ。
それよりも起業して、社長になった方がはるかに儲かる。
ただ、起業して儲かるのは「成功したら」と上に付き、成功する確率は1割未満なので、ほとんどの人が挑戦しないだけ。
5年後に倒産する割合が全体で見れば6割、ベンチャーに限れば85%と、茨の道。
しかも「成功した」と言えるのは、倒産しなかった企業の半分も無いのだ。
起業は成功する可能性が低いだけでは無い。
起業にはお金がかかるし、手続きも面倒。社員を抱えやっていく責任も重い。儲けるには、相応の苦労がある。
そこまでして大金が欲しいと言える人の方が少ないのが現実である。
労せず楽して大金が手に入るならそれが最善だけど、苦労してまでは欲しくないのが人間なのだ。
だから、九条さんの誘いに乗る人など、ほとんど居ない。
「日本は“愛国心”とか言うだけで白い目で見られる変な国だからな。普通じゃない。
それをやれ軍国主義だの、右翼だの。頭の悪い連中の言うことには付き合っておれん。脳みそにカビでも生えてるのか、連中は」
ちなみに、そういったリスクを抱えてでも挑む理由は様々だが、九条さんとしては「愛国心」を中心にして欲しいという考えがあるようだ。
これは分からなくもない。
国政や国防に直結する部分は、やっぱり国全体を考える人の方が任せて安心できる。
私利私欲の人だと、もっと条件の良いところにあっさりと転ぶからね。
ただ、日本は愛国心を養うタイプの授業をしようものなら、なぜか反対運動が起きる摩訶不思議の国。世界でも類を見ない教育現場を抱えている。
これは敗戦国として外国から植え付けられた思想なんだけど、だからと言って半世紀すぎても無くならないのは異常の一言なんだよな。他の国はそんな風になっていないし。理性的な話ではない。
九条さんには、そこがもどかしいようだな。
余談ではあるが、「日本人と家族の話はしたくない」という外国人は結構多い。
と言うのも、日本人は家族を貶す傾向にあるからだ。
それが「家族は大切にするのが当然」という考えの外国人には受け入れがたいらしい。
例えば同僚に「うちのかーちゃんは怒ると怖い。まるで鬼だよ」と嫁のことを話す夫が居ても変ではない。
だけど海外だと、まず居ない。「じゃあ別れろよ。なんで結婚しているんだ?」と、そういう話なのだ。家族自慢をする奴の方が圧倒的多数だ。
なので自分を下にし、低く扱うことで相手を持ち上げるタイプの会話が成立しない。
俺個人の意見だが、そうやって自分や身内を低く言う習慣があるからこそ、愛国心も根付かないんじゃないかと思うよ。
もちろん軍国主義の反動という考えも間違いじゃないし、占領軍の洗脳が優秀だったという意見も正しいだろうね。
でも、それだけでここまで「反愛国心」が長続きするとは思わない。
汚職政治家とかを持ち出す人もいるとは思うが、それに関しては外国だって同じだぞ?
悪いところは悪いと言って良いけど、実際に海外に行ったことがある身としては、良いところだって多いと断言できる。
トータルで見れば日本って良い国だと思うんだけどな。




