最前線+九条さん①
最前線、ダンジョンの奥地で活動する冒険者は荷物を持ち込まない。
移動を優先するために、身軽な状態でダンジョンを移動するのだ。休む時も拠点キャンプを使うので、普段だったらもう移動を諦めるような時間帯まで移動に時間を費やせる。
道中のモンスターは他の冒険者が間引きをするため、移動中に戦う事はまず無い。
それにより、通常の3倍以上の速度でダンジョンを駆け抜けることが出来る。
今回は7日目キャンプ拠点までを2日で移動した。
ここで一晩ゆっくり休んだ後、荷物を受け取り、ダンジョン最奥、ボスの居るところを目指していく。
最前線パーティは俺以外にも3パーティいるんだけど、周辺のマップを完成させるためにも、彼らはバラバラに行動していた。
「いやお前、反則だろ」
わけなんだが、俺は最前線が初という事で、九条さんと一緒に移動をしている。
さすがに7日目キャンプから先となると敵の強さが跳ね上がるため、慣れるまでは補助をしてくれるらしい。
「そうですか? ちゃんと休んで、気力と体力を回復させて。それがしっかりできるかどうかって、やっぱり大事だと思うんですよね」
「そういう事じゃ……いや、いい」
出てくる敵は、これまでのリザードマンや毒蛇、ワニ、ワイバーンのパワーアップ版。
基本性能が上がり魔法を使うようになった奴に加え。
コモドドラゴンのデカいやつ。
恐竜のラプトルみたいな二足歩行するトカゲ。
この2種類が加わる。
敵が強くなったことでここから先は拠点を作れず、食料やらなんやらの都合で長期の探索も難しく。結果、ダンジョン探索が停滞しているのが現状だ。
拠点を作り、それを維持できないとなると、たとえ最強クラスの強さを誇り、向かうところ敵なしの九条さんでもダンジョン探索を続けられないのである。
飢えと渇き、睡眠不足は最強冒険者だって勝てないという話だね。
俺には関係ないけど。
半分ロボットな俺は、魔力補給が容易なダンジョンなら、そこまで物資を必要としない。飯の替りに魔力で腹を満たす事も、ちょっとは可能だからだ。
そしてパーティメンバー全員がロボットなので、パーティ全体に同じことが言える。
全冒険者の中で、俺が一番長期探索に向いていると、自信を持って言える。
ついでにタイタンは体内収納により物資運搬能力が高く、人間だけで冒険するときの10倍は物資を持ち込める。
タイタンも数が徐々に増えているため、九条さんがいても10日は余裕で探索を続けられた。
細かく物資を管理し、節約気味に動けば15日でも大丈夫かな? やる意味もないので、そこまでする気は無いけど。
最前線探索中、普通に休憩するだけでも、九条さんはどこか疲れた顔をする。
みんなに周辺警戒を任せ、俺はスティックのコーヒーを飲む。美味しい。
人前なので、普通の人間への擬態、誤魔化しのために飲食をするのではなく。
美味しいものを飲み食いするのは幸せな気分になるので、ダンジョン内だろうと、それがラスダン最前線だろうと構わず、嗜好を満たすために甘めのコーヒーを飲んでいる。
それが九条さんには「ありえない贅沢」に映るんだろう。たぶん。
仲間に警戒、周辺の敵の掃討を任せていることまで含めて、これまでの常識を覆された気分になっている、はず。
連れてきた戦力が過剰に見えるって可能性もあるかな?
理由は不明だが、どこか呆れた雰囲気だ。
常識は常にアップデートされるんだから、細かいことは気にしなくていいと思うんだけど。




