問題山積み(安全)
「かなり危険な状況になりつつあるのだよ」
原神販売開始からしばらくして。
やっぱり多くの会社が人型ロボットの販売を始めた。
ダンジョンに、連れていけるレベルの人型ロボット。
それを作れる会社は多数あり、各社、特色を出しつつ販売促進を行っていた。
ただ、先行している原神のように、レベルアップ後のデータを出している会社はなく、人工知能の進化について言及しているはずもない。
だから原神を求める声は強く、需要が有ると見る事もできるんだけど。
「他の会社は、自前で使える不人気ダンジョンをいくつも確保したみたいですね。
そっちは考えていなかったけど、ゴブリンしか出ないようなダンジョンは軒並み完売したみたいですよ」
「他の会社も、自前のダンジョンで製品強化を行う時代になったわけだ! 我々は先駆者なわけだね!
ここからの追撃がどうなるかだよ。現実は厳しいのだから、楽観はできないかな?
ま、原神もアップデートされなければすぐに過去のものとなるのだから、投資先を間違えると一瞬で終了だろうがね!」
「その前に、販売先が無くなりそうですけどね」
ゴブリン退治ができるロボットを、各社が販売しようとしている。
で、検証のために自社ダンジョンを手に入れる。
元々、辺鄙な場所だから人が来ない不人気なダンジョンだ。工場を作るのにも都合が良く、ロボットメーカーとは何気に相性が良いみたいだ。
アホらしい話だけど、人型ロボットって、そういった不人気ダンジョンをどうにかするのに使われると思っていたんだよね。
けど、メーカーが不人気ダンジョンを押さえてしまったから、ロボットを買ってまでダンジョンをどうにかしたい人がほとんど居なくなっている。
おかげで、正直「誰が買うんだろう?」という話になってしまった。
国が抱えている不人気ダンジョンなら、まだ芽はある。
自衛隊の隊員を休ませるためにも、人型ロボットは有効だろう。
しかしその自衛隊の購入枠は、原神が押さえてしまった。
他社の物は、すぐには売れないだろう。
会社的には困る話じゃないだろうか?
「そうでもないのだよ?
原神らは夜警ができるし、物資の運搬にも使えるからね。レベルアップ前で戦闘能力が低くとも、そこそこのダンジョンにだって連れて行ける。
そう考えると、高レベル冒険者が買う可能性は低くないのだよ」
四宮教授は、どこか悪戯めいた顔でかつての仲間を嗤う。
「自衛隊への納品は、それは大変そうだよね。
そうやって自衛隊の相手をしているうちに、外では他社がシェアを確保する。
……彼らは、巻き返しができるかな?」
及川准教授と四宮教授は、他の仲間をこちらに引き込まなかった。
そうするだけの関係が無かった様子である。
原神の4号機と5号機は既に返却済み。
今後は付き合いを最小限にするため、データのフィードバックも契約を終わらせた。
これで大学サイドとは距離ができた。
今後、大学の連中は自前のダンジョンを確保できるかどうかという話になり……巻き返しは、おそらく不可能だろうというのが俺たち3人の共通見解だった。
出遅れはしたものの、巨大資本は強いのだ。
簡単に打ち崩せるのなら、大企業が長年君臨し続けている説明がつかない。
落ち目の会社もあるものの、ジャイアントキリングが簡単と言えるほど、世の中は公平じゃないのである。
研究資金の差、人材の差。
すぐに追い抜かれる未来が見えていた。
「それで、なのだよ」
ネットで人型ロボットのカタログを見ていると、四宮教授が歯切れ悪そうに声をかけてきた。
「一文字君には酷な話になるのだがね」
四宮教授は、原神のメンテをしながら、こちらに要件を切り出す。
「原神を、売ってしまった方が良いのではないかと、私は考えているのだよ。
困った事に、一文字君の原神を購入したいという話が多数出ていて。購入したいという者だけならともかく、中には非合法な手段を取りかねない輩が混じっている。
自分だけではなく、家族の安全も保証できなくなりつつある。身の安全のためにも、原神がここに在るのは拙いと。言いたくはないけれど、そう言わざるを得ないのだよ」
それは原神の売却という、俺にとって受け入れ難い話。
言っている意味が分からない訳ではない。
これは想定された範囲の中にあった話なのだ。
そのリスクを受け入れるつもりで、俺は四宮教授に原神のAIが進化した話を他の人と話し合うように仕向けたのだから。
不安そうにする四宮教授。
しかし俺は、すぐに答えを返す事ができなかった。
愛着があっても、いざという時には売ってしまうつもりだった原神たち。
何故か今の俺には、彼らを手放したくないという感情が芽生えていたのだった。




