古い関係の男③
「ダンジョン公営化の市民団体には一部の冒険者ギルドが支援をしている。
冒険者ギルドにしてみれば、ダンジョンに人が入るときにロボットを貸し出す役割が求められるから、ドロップの売却が無くとも収入源になり得るという考えだ。
レベルアップそのものを魅力として売り出せるってことだな。
しかも、だ。連中はダンジョンに人が集まることで地場産業が活性化したというデータを持ち出し、正当性を主張している。
これは俺も関わっている話なんだけどな。うちの、彦根ダンジョンが周囲に与える影響から算出された数字が連中の言葉を証明しているんだ」
史郎は苦り切った顔で事情を説明している。
扇動している連中にしてみれば、裏付けとなる事実のみを公表し周囲の理解を得られればいい。
都合のいい事実だけを抽出していると知っていても、嘘は言っていないというわけだ。
「ただし、企業がダンジョンを保有した場合の影響についてはロクに調べられちゃいない。
実際、お前らの会社の納める税金、なかなかのモンなんだろ? それが無くなるデメリットを軽視してる。
ただ、そこは企業努力、ギルドへの発注でどうにかすれば良いって考え方なんだろうな」
なお、わが社の納める法人税は、市にとっては無視できない金額になっている。
多分も何も、市で一番納税している自信がある。
さすがに県単位だともっと上に売り上げ一兆円規模の企業とかがあるから、そこそこ程度の評価に収まるだろうだろう。
けど、うちが他所に本社を動かすとなれば、市議会議員が土下座して引き留めるレベルである。
地元の雇用にも貢献しているので、一方的に、蔑ろにされる事は無いはずだ。
地元の政治家が裏金などの後ろ暗い取引さえなければ、だが。
国レベルの話になった場合、こちらが絶対に無事に済む保証など有りはしない。
下手を打てば、ダンジョンを取り上げられることになりかねない。
政治家に渡りをつけてどうにかするのは難しい。
有力な政治家はすでに地元に政治基盤があるので、外様の俺の言葉など聞き入れる理由が無いからだ。
そもそも政治家に賄賂を渡してどうにかなるような話ではないし、そんな手段など取りたくないし、バレたら終わる裏道など自殺行為でしかない。
表と裏を問わず、利害関係の調整は現実的ではない。
何かしらの、別アプローチをとるべきだろう。
地域経済への貢献を主張し地元の人間、テレビ出演の経験を活かしてマスコミ、取引のある鉄鋼業界、自衛隊との取引の縁を使い自衛隊と、できるだけ味方を増やしていくのが良いか。
ああ、普段はライバルでしかない同業他社との連携も考えるべきだった。
他、考えつくのは俺の持つ縁だけでなく、及川教授や四宮教授にも協力を依頼するべきか。
どちらかと言えば世の中は公営化ではなく民営化に舵を切る事を望んでいる部分もあるので、上手く立ち回れば世論を味方に付ける事も不可能じゃないはずだ。
「こっちの職員の中には市民団体と個人的に仲の良い職員も居てな。そこが狙い目だ。
俺が表立って動くわけにはいかない。俺はアイツの近くに居る分、動きを察知されやすく、慎重になって面倒臭い事になる。
だが、あの馬鹿も九朗が動く事までは予想していないだろう。だからすまないが、後はそちらに投げさせてもらう」
今回の件は、思った以上に厄介な事になりそうで、話が今まで以上に大きくなる可能性がある。
その流れの中に史郎もわずかに関わっていて、その立場から知る事が出来た情報を俺に流してくれた。
あと、こちらに気を遣ってか、あくまで仕事を依頼しているといった言い方をしている。
史郎が何かしたところで俺を取り巻く流れが変わらないんだから、史郎に責任は無いんだけどな。
トータルで見れば、史郎はただ、俺にとって有益な情報を流してくれただけだ。
「それで、こいつなんだが―――」
最後に、史郎は市民団体と癒着している部下の写真を取り出す。
そこには、彦根ダンジョンで俺をギルドマスターに勧誘してきた男が映っていた。




