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古い関係の男①

 新装備のお試しを、ウッドフェンリル相手に試してみる。

 ラスダンは国の管理するダンジョンで自由に入れるわけじゃないから、自由に戦えるのはここぐらいなんだよね。


 あと、わりと切実な問題。

 ラスダンで戦っても、手に入るのは自分たちでも使うような欲しい素材ばかりなので、お金にならない。

 ここでしっかり戦って、多少はお金を稼ぎたいところである。



 ……「ラスダン素材を多少売れば?」って言われそうだけど、売ったら売ったで凄い税金になるから、あんまり売りたくない。

 自社内で調達・製造・使用なら税金が発生しないので、国から睨まれそうな気もするけど。

 ラスダン攻略、国内の冒険者の戦力拡充は国に利益のあることだから見逃してね?





 そんな平和な日々を過ごしていると、珍しい所から「会えないか?」と連絡が来た。


「――ええ。構いません。では、それで」


 奴はこちらに連絡を取ってくるような相手ではなかった。

 ここ数年はおとなしかったし、問題も起こしていない。

 なのになぜ、アイツは俺に連絡を取ってきたのか。


 会いたくないと言うほど、アイツを嫌ってはいない。

 昔、アイツに迷惑をかけられたのは事実だが、勝手に自爆して酷い目に遭ったわけだし、禊も終わっている。


「いまさら何の用なんだろうね、史郎の奴」


 このタイミングで「会いたい」と言われる理由を思いつかず、俺は一人、首をかしげるのだった。





 史郎は、俺を冒険者の道に引きずり込んだ人間の一人であり、ちょっとした事で俺をパーティ追放して酷い目に遭った哀れな幼馴染だ。

 スペックは悪くないのに間が悪いというか、運の無い奴だから、変なところで躓くタイプである。


 面倒くさい奴だと思うし、あまり深く関わりたいと思わないが、言うほど嫌っていない。

 されたことに関しても、恨みとかはもう欠片も無い。

 だから俺のいない所で幸せになってほしいと考えているぐらいかな。



 そんな史郎はかつては妹の事で余裕がなかったが、その妹ももう健康になった。

 アイツ自身、滋賀の冒険者ギルドでギルドマスターになって俺と物理的に距離を置くぐらい、冷静な判断力を取り戻している。

 もう大丈夫だから、懐かしい顔でも見てみようと、そんな気持ちで会ってみたが。


「九朗! 久しぶりだな!」

「……誰だ、お前?」


 その史郎は、思った以上に様変わりしていたよ。



 岐阜県某所の、人気のある喫茶店。

 モーニングメニューのエッグベネディクト、美味しい。


「ああ、ここは俺のおごりだから好きに頼めよ。遠慮しなくていいぞ」

「マジかー」

「引退した冒険者が太るなんて、普通の事じゃないか。そこまで驚く事か?」


 俺の目の前にいるのは、身長が175㎝ぐらいでも体重100㎏近い太った男。

 冒険者を引退した反動で太ったと言っているが、これは全然想像していなかった変化だ。

 コイツはこれでも自分に厳しいタイプだったので、引退してもそういうのと無関係だと思っていたのに。



 張りつめていた以前と違い、太っちょ史郎が緩い雰囲気でニコニコとしているのは、どこかユーモラスでもある。

 家族、友人とモーニングを楽しんでいる喫茶店のざわめきの中では、何の違和感もないけど。


 けどこいつ、これでも冒険者ギルドを相手にロボットのリースやサブスクで大きく儲け、支部一つを差配する立場なわけで、一般人より多くの人の注目を集めているわけだ。

 「太った奴とタバコを吸う奴は出世できない」はアメリカの格言だが、本当に大丈夫かと疑いたくもなる。


「言いたい奴には言わせておけばいい。結果で黙らせればいいんだからな」


 ずいぶん落ち着いているな。

 ま、良い変化なんだけどな。



 姿も雰囲気も随分変わってしまった史郎。

 そんな史郎と俺は軽いおしゃべりをしながらモーニングを平らげると、たいして防諜などにも気を遣わず、本題に入るのだった。

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[一言] 「幸運になる壺があるんだが…」
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