ドラゴンの反撃
近くにいた透明ドラゴンはあらかた倒した。
が、状況はそこまで大きく変わっていない。
他のドラゴンは健在だし、こっちは疲れ始めている。
だけど、敵の特殊ユニット的な奴を倒したことで、士気は上がった。
素人集団であれば、勢いに乗ったつもりで突出し袋叩き似合う馬鹿もいるのだろうが、ここにそんな奴はいない。
透明ドラゴンが複数いたので、ボスモンスターではないと判断したのも影響している。
確かな達成感を得つつも、ことが終わればまた敵ドラゴンを地道に倒し、数を減らしていくだけだ。
ドラゴンを倒したところで補充されるけど、それでもやらなきゃ話にならない。
そう思っていたが、どうやら透明ドラゴンが補充要員だったらしく、追加が来なくなった。
少し経ってそれが分かると、ようやく見えた終わりに冒険者全員が笑みを浮かべる。
「あとはこいつらを片付けるだけだ! さっさと終わらせるぞ!!」
「「「応っ!!」」」
「よっしゃ! やってやるぜ!」
「槍パ〇サ~?」
「ちげーよ! ダ〇クーガだよ!!」
「お前ら、ふざけすぎだぞ!」
「サーセン!!」
終わりが見えれば、人は強い。
これまでいつまで戦えばいいのかという不安が付きまとっていたが、終わりが見えているなら、そこまでは頑張れる。
これまですでに70体以上のドラゴンを倒している。
ここからドラゴン100体討伐は今の俺たちにできるかどうかわからないアウト寄りの判定だが、それでも終わりさえ見えているなら、絶望しない。
ここまで大きな被害を出さず、犠牲ゼロで戦い抜いているのも、心が折れない理由の一つだ。
だけど、ドラゴン側も無策ではなかった。
いや、下手をすると、この流れすらドラゴンどもが作ったものだったのかもしれない。
希望を得て沸き立つ俺たち。
そんな俺たちに最高潮に達したテンションに冷や水を浴びせ、確実に心を折るため。
俺の心臓やや右を、ドラゴン越しに飛んできた、収束レーザーらしき一撃が貫いた。
……死ぬかと思った。
俺の心臓の横に、こぶし大の大きな穴が開いている。
しかし残念ながら、俺は体に穴が開いた程度では死なない。
「よっと」
結構魔力を消費するが、これぐらいならあと10回ぐらいやられても何とかなる。
脳みそや心臓がやられると再生に時間がかかったりするが、肺や食道をぶち抜かれた程度なら、まだ軽傷なのだ。
我ながら人間をやめていると思うけど、出来るんだから、それでいいのだ。
「ちょ、おま!? い、生きてるのか?」
「生きてますよ。装甲で威力が減衰されたのと、重要器官には当たらなかったので。ギリギリです。
心臓直撃だったらヤバかったですけど、それは何とかなりました」
「マジかよ……」
「中までロボットとか、そういうオチじゃないだろうな」
とはいえ、これは俺の常識であって、人間の常識ではない。見ていた人は一様に驚いていた。
一本取られたと、素直に敵を褒めておく。
ここまで晒す気は無かったというのに、見られてしまうとは失態である。
そして敵の戦術がこちらを上回ったようだ。
これは、俺でなければ死んでいただろうし、そうなればそこから建て直せたかどうかは危ういと思う。
もっとも、戦場では結果がすべてである。
敵はこれまで温存していただろう一撃を使い、それでも俺を仕留められなかった。
つまり、敵は千載一遇のチャンスを逃したのだ。
俺たちは、消耗しているとはいえ、まだ全員が健在。
盛り上がりは一瞬で収まってしまったが、仕切り直せばまだまだいける。
あとはさっきの一撃を撃ってくれただろうドラゴンを仕留めてやるだけだ。
こんなことが出来るドラゴンが、そうホイホイとそこらに居てたまるかという話。
そこさえ乗り切れば、本当に終わりまで寄せていける。
「コイオス! クレイオス!」
俺は一番近くにいた二人に声をかけると、念のために二撃目を警戒するのだった。




