反撃②
こういった状況では、敵の指揮官を叩くというのが常道だ。
統制された群れがあれば、ほぼ確実に指揮官がいる。
それを倒せれば、俺たちにも勝ち目が見えてくるはずだ。
ダンジョンそのものが指揮官という可能性は否定しきれないけど、たぶん、それは無い。
悲観的な考えから目を逸らしたいとかそういった消極的な理由ではない。
単純に、これまでの経験則から、ダンジョンがそこまで直接モンスターを統制したりしていないという判断をした。
敵の指揮官だが、普通に考えると後方にいる。
普通の生き物は前線に出ると視野が狭くなり、戦場を俯瞰できなくなる。センサー類の強化されたロボには関係ないけどな。
視覚に頼る生き物が戦場全体を把握したければ、全体が見れる後ろにいるのが普通なのだ。
そして、ドラゴンには眼が有り、視覚に依存していなくても、視覚を利用している生き物だと推測できる。
また、後方に指揮官を置くのは安全の問題もある。
よくある、指揮官が最前線で戦うというのは、指揮官がやられたら終わりの状況では、まずありえない。
指揮官が最強なのは、古代の軍隊や動物やモンスターの群れでは普通の事で、最強を遊ばせておくのはもったいないとか、権威付けや士気の問題で指揮官が最前線に出るのは確かにある。
だが、ある程度戦場を知り、全体の効率などを考えれば、「最強」は最前線に置き、最も賢い者が指揮官を担う方が都合がいい。
ドラゴンは強靭な肉体で己の世界が完結しているからか文明を持たないが、賢いのでそういった判断もできるだろう。
ただ、敵も賢いので、こちらの思考を読み、裏をかく可能性も高かったりする。
ひときわ体が大きかったり魔力が強いのが後方にいて、「あれが指揮官だ!」などと、分かりやすく最も奥に配置されているという事は無いのだ。戦国時代だって影武者とか、普通にあったしなぁ。
なお、こちらには九条さんという人類最強戦力がいるので、指揮官さえ判れば後は何とでもなる。
その九条さんが単純な迎撃をしているという事は、まだ敵の指揮官ドラゴンが判らないという事。それだけ敵も頭を使っている。
敵も勝つために必死なので、楽はさせてもらえなかった。
「こっちにはいない、か」
レドーム持ちのタイタンと三人娘。
複数がばらけた所にいる事で収集される情報は緻密になり、少なくとも俺たちの近くに対する探査は完璧に行われている。
レドームがいくら高性能でも、探査範囲が遠くになればなるほど精度が落ちるのは当然で、現状では指揮官が遠くにいると考える方が自然であり、精神的に優しい。
つまり、これで見つからないなら敵指揮官は近くにいないか、俺たちの認識能力では察知できないレベルの隠形持ちという事になる。
だからといって諦めてしまうより、出来る事を一つ一つ着実に行い可能性を総当たりする方が、何もせずに諦めるより前向きだと思うよ。
ジタバタするしかないのなら、ジタバタするのが人間なんですよね。アバ○先生。
そうそう。
探知の補助として、一部の冒険者には、投石による牽制をお願いした。
ドラゴン相手に投石程度でダメージを与えられるはずもないのだが、もしも敵指揮官が姿を消しているのであれば、石を当てる事でその存在を明らかにする事が出来る。
やらないよりはマシ程度の雑な行動だが、ドラゴンを相手取る魔力を絞り出し終わった冒険者の仕事と考えればそこまでの負担でもないため、気休め程度に行わせていた。
魔力を使い切ったとしても、何もせずにじっと魔力の回復を待つのは辛い。
だから出来る事をやらせて気を紛らわせようという、それだけの話である。
ただ、その気休めが功を奏した。
「!? 反応あり! ここです!!」
誰かが投げた、石の破片。
適当なドラゴンに当たって砕けたそれが、空中で異常な軌跡を描いたのだ。
それに気が付いた冒険者の一人が、急いでそこに魔法を撃ち込む。
威力の低い、しかし出が早く回避されにくい電撃系の魔法が何も無い空間で散らされた。
そいつがいたのは、レドームで探るにはやや遠く、しかし俺たちから離れすぎていない、絶妙な位置取りだった。
それにみんなが気が付いた時、状況は一気に動き出す。




