状況悪化④
複数の冒険者パーティが共闘するというのは、昨今あまり聞かない。
普段ラスダンでやっているのは、共闘ではなく交代制の間引きのような物。九条さんを最前線まで消耗させないための協力であり、肩を並べて戦っているわけではない。
それに共闘となると報酬の分配で揉めるため、そのリスクを減らすために普段はパーティ単位で戦うのが普通になっていたのだ。
ダンジョンで戦う分には、共闘など必要ない。
ダンジョンで戦うのではなく地上でスタンピートでも起これば共闘し連携する事になり経験も積めるのだろうが、ダンジョンの魔力を感知できるようになって以来、スタンピードは起きていない。
よって冒険者には連携の経験を積む場がなくなっていた。
完璧な連携は無理というのがみんなに共通する見解だ。
しかし完全にバラバラに戦うよりも、ある程度まとまって戦うだけでも効果はある。
だから戦列を作り、それを崩さないように戦う事で意見は一致。不完全でも戦闘する範囲を少しでも少なくし、隙を減らす。
なお、俺たちは視野の広いレドーム持ちを中心に周囲の様子を観察させ、他の冒険者のフォローを行う。
戦闘に直接手を貸すのではなく、戦闘中のパーティが他のドラゴンに襲われないよう、牽制をする遊撃のような役目だ。
目の前だけでなく、こういった広域警戒は集中力を要するため、人間だと長続きしないものだが、ロボットに任せれば安定する。
一応は人間の筈の俺自身は気を抜けないが、これでも何度も修羅場をくぐってきたのだから、何時間でもやり抜いてみせるよ。
ドラゴンの大群との戦闘開始から1時間ほど経過した。
倒した数はそろそろ100に届くが、それでようやく折り返し地点。減らしても減らしても増援が来るため、かなりヤバい。
下手をすると、ラスダンで戦ったいつかのティターンのような、無限湧きするタイプの敵なのかも知れない。
終わりが見えない戦いは精神的にキツい。
こうなるとみんなの消耗も大きく、いくつかのパーティは疲労の色が強くなっている。
戦闘の効率はだんだん悪くなっていた。
逆に調子が上がっていくのは俺たちだ。
敵を倒すたびに強化される黒の魔剣を持っているので、俺と三人娘の火力はかなり上がっていた。
だからか、俺たちはいつの間にか遊撃ではなく、九条さんと並ぶ主戦力となっていた。
「良い武器を持ってるじゃないか!」
「売れなくて、自分たちで使い始めたんですけどね! 売れなくて良かったですよ!」
「ああチクショウ! その情報はチェックしてねえ! 勿体ねえなぁ!」
焦りや不安は厄介だ。
どうにかしようと思っても、ただ意識するだけで簡単にどうにかなるようなものでもない。
だから全く関係無い会話を大声でして、そういった感情を少しでも軽減する。
焦りとかから目を逸らし、大声を出すことで精神の安定を図る。
大きな声を出すと気持ちが高揚するからね。心が負けないようにする場面ではとても有効だ。
お互い、まだ戦えると気持ちを奮い立たせる。
たった1時間の共闘でも、俺たちは徐々に連携できるようになってきている。
が、それでも足りない。
精神的に負けなくても、魔力や体力が尽きる。
装備だって消耗していく。
このまま戦って、勝利するビジョンがない。
現実的な解決策が必要なのだ。
もっと根本的に、この状況を終わらせるような何かが。




