状況悪化②
モンスター大発生がもう一度あるかもしれない。
その可能性を潰そうと思うなら、またあの祠に行って、例の冒険者チームを止めればいい。
道中の戦闘を観察していたが相手は明らかに格下だし、それができるだけの戦力もある。
ただ、戦って止める事のリスクがゼロとは思っていない。
窮鼠猫を噛むというように、敵が思わぬ能力やらなんやらで、俺たちに致命的な一撃を放つ可能性がある。
なにしろ、敵はティターンを手に入れているのだ。油断していいはずがない。
だったら、地上に戻ってから大人数で囲み、安全に捕縛するのが最善だと思う。
それに、俺がそこまでしなきゃいけない責任だって無い。
と、言うより。そこまで頼まれていないのだ。
正義感をかざし、余計な事をして、戻ってみれば犯罪者。さすがにそれは嫌だ。
モンスター大発生だって何度もやれば、ダンジョンのリソースが尽きるはず。
俺たちのティターンチャレンジだって、連戦した事で敵の強さが変わらないのに徐々に貰える物が悪くなっていったんだ。
難易度が高いのにクリア報酬が塩っぱくなっていくのが分かれば、そこまで馬鹿な事はしないと思う。
理性だけで考えれば考えるほどリスクが低いのも、俺が積極的に捕縛にいきたいとは思えない理由なんだけど。
それなりに付き合いの長い人には別の見方が出来るようで。
そんな人たちの注意、警告を利いた俺は、無駄になるだろうなと思いつつも、近くの木々を使った簡易陣地を拠点キャンプの周辺に作っていくのだった。
この考えが甘すぎた事を俺が知るのは、もう少し先の話である。
世の中にはガチャ的な考えというか、「ここまで悪い流れが続いたんだから、次こそ良い物が手に入るかも知れない」と、後に退けなくなる人種がいる事に。俺は気が回らなかったのだった。
その後もチマチマと働き、以前と同じようなモンスター狩りでドロップアイテムを集めた。
そして奥の攻略を進めた九条さんらが戻ってきたのを契機に、ダンジョン攻略を終えて帰る事となった。
大発生の影響か、あの後はモンスターの密度が下がり、ちょっと狩りの効率が悪かった。あの大発生の直後に撤収できていれば前回以上の利益効率だったんだけど。
好調だった序盤だけでなく後半と合算すると、前回の倍近い日数で推定収入合計三割増しと、微妙な結果となった。
ドロップはランダム要素があるので、運良くレアドロップでもしていれば良いんだろうけど、たぶん、それは無い。
赤字ではないけど、ああいったことがあった場合はさっさと帰らせて貰えるよう、上と交渉するべきかな。撤収開始直後はそんな事を考えていた。
「……何も無かったな。すまんな、余計な事を言ったようで」
「構いませんよ。人の意見を聞いて、最後に決めたのは自分ですから。文句を言うくらいなら、意見を聞いても何もしなければ良かっただけの話です」
「帰ったら俺のなじみの店で酒でも奢るさ。飲めるんだろ?」
「それは良いですね。楽しみにしてますよ」
収入が微妙だったのは俺たちだけではない。
他の冒険者たちもあまり思うように稼げず、その顔はどこも微妙な感じだ。
機嫌が悪いと言っては大袈裟になるが、帰ったあとを考え気分が良いとはならない。そんな雰囲気だった。
特に、俺に注意を呼びかけた人は決まりが悪そうである。
俺が拠点キャンプ周辺に色々と仕込んでいたのを見ていたからだろうな。
俺としては、その責任を押し付ける気はなかったので、責める気がないのを明言しておく。
詫びについては素直に受け取るけどね。
それで貸し借りゼロ。
こういう時はそう思って貰えた方が良いだろうし、今度何かあったらこちらが奢れば良いと思えば、付き合いも楽になる。遠慮なんてする場面じゃないよ。
そんな風に、3日目用の拠点キャンプ付近を移動していたときのことだった。
モンスターの大発生が再び発生したのは。




