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状況悪化①

 モンスターの大発生があったものの、今回のラスダン攻略は中断されない。

 というのも、前回、前々回とイレギュラーが続いたため、同系統のイレギュラーが発生したとしても継続する方針が決まっていたからだ。


 嫌な話だが、異常も続けは正常となる。

 モンスター大発生が定期イベントとなるようであれば、それに対応できるようにならなければラスダン攻略も覚束ない。

 御上はモンスター大発生のリスクを込みで、ラスダン攻略をするようにと俺たちへ通達を出している。


 よって、今回はそれ以上の問題が発生しなければ、ダンジョン攻略は続行されるのである。





「なぁ、一文字さんよ。アンタは“二度目”があると思うかい?」

「推測推論で、確証の無い話になりますけどね。“無い”というのが、俺の見立てです。

 ここまで大量にモンスターが発生する以上、連中の消耗もそれなりだと思うんですよ。それに、祠で特別な捧げものをしていたなら、その捧げものの在庫も、そう多くは無いだろうって思います。

 だから俺は無いと思いますね」

「ふーん。なるほどな。参考にさせてもらうぜ」


 5日目拠点キャンプの面々も、そういった理由で帰らない。

 モンスター大発生の二度目があるかどうかを気にしていたが、それでもこの状況を少しは予測していたこともあり、事前準備をしっかりとやっていたのだから、損耗も大きくは無い。

 人的被害は出ておらず、物資の方も無事だったのだから、俺でもそうする。



 ここで帰れば、準備一つまともにできないダメ冒険者のレッテルを貼られかねないので無茶をする、ではなく。状況を正しく認識して、できると判断したから続行するのだ。

 引き際を見誤るようでは、ラスダンに参加する冒険者には成れないのである。


 逆に、本当にヤバいと判断するなら、その時は臆病者と言われようと撤退するのがプロである。

 対外的な評判やプライドは大事だが、それは命がけで守るべきものでもない。


 仕事は大事だけど、命よりは下だからね。

 「死ぬ気でやれ」は、冒険者であっても適用されないのだよ。

 人間、死ぬ気じゃなくても本気は出せるんだからな。



 ただ、残るとなれば気になるのは、また同じ事があるかどうかだ。


 個人的な予想では、まず無いだろうなって思ってる。

 挑む連中の戦力が微妙だし、荷運び用にロボを使っている様子もなかったので、物資の持ち込みだって難しかっただろう。

 連戦できそうな状況ではないように見えた。


 俺たちという監視者に気が付いていないのが前提だけど、冷静な判断ができるのであれば、今回は二度目をやらず、次に挑めばいいと普通は考える。

 あんなのでもここまで順調にステップアップしてきたトッププロなので、そういう焦り方、命を削って無理を通すような事はしないと思う。


 俺たちだって、ティターンと初めて戦った後は消耗具合を考えて撤退したからな。

 彼らだってそうするはずだと俺は思うし、それを聞いてきた冒険者チームも同じ意見だった。


 だったのだが。



「参考にはするけど、俺の勘は“二度目”はあるって言ってるぜ。

 こんなバカなことをしでかしたんだ。もっとバカな事をしてもおかしくねぇ。

 ま、言うだけならタダの予想を勝手に言ってるだけだ。信じるか信じないかは、お前さんに任せるぜ」

「冒険者ってのは、そういうもんだからな」


 チームリーダーの人は、俺の予想が「理性と把握されている状況に基づいた論理的な判断」と認めはしたものの、真っ向からそれを否定した。

 「バカは理性と論理で動かない。感情論だけで愚かな事をしでかす」と予想してみせる。


 ある意味、冒険者という命の危険がある仕事を選んだ時点で、冒険者は誰もがそういう部分が狂っている。

 命の危険を冒すものが冒険者の本質だとうそぶいた。



 それは最悪を想定しているわけではなく、勘と経験から導いたトッププロの結論。


「俺の予想よりも、そっちをベースに考えた方が良さそうだな」


 俺はもう落ち着くだろうと思っていたが、確証があるわけではない。

 状況は最悪を想定した方が良さそうだった。

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