怪しい冒険者の調査⑤
例の冒険者の姿は、遠いけどギリギリ視線が通った。
望遠モードで、モンスターからも隠れながら観察を続ける。
怪しいからといって、何をしてもいいわけではない。
誤解、冤罪で襲撃などしようものなら、こちらが犯罪者になってしまう。
何かしらの決定的な証拠が見つかるまでは、動くわけにはいかない。
「つまり、暇なんだよ」
こういった追跡をしてみて思う事は、やっている事がひたすら地味で、面白くないという事。
静かに、こっそりと、誰にもバレないようひたすら相手の様子を窺う。
こういうのが好きな人も世の中に入るのだろうが、隠れて何かすると言うのが俺には向いていないようだ。
敵であればみんなで直接ぶちのめすような、単純な仕事の方が向いている。
ロボ開発関連で隠し事が多いのは確かだけど、それとこれは違うって話だ。
一応、出来なくもないからこの仕事を引き受けたけど。できれば今後は遠慮したいね。
連中は俺が隠れて見ている事に気が付かないようで、何も警戒せず、バックパックから魔石を取り出した。
そして石の祠の中に安置する。
そこまでは取りたて奇妙な行動では無く、他の冒険者でもやりそうな、ありきたりな行動となる。
ただ、そこからは他の冒険者がまずやらないような、こいつらが独自に見付けたんだろうなという行動だった。
連中は、祠の前で膝を突いて祈りを捧げる一人を除き、全員で踊り出したのである。
「あー。神事を再現してみたの、か?」
やや自信は無いが、多分そういう事である。
よくよく考えてみれば、俺が普段作っている万華鋼。これも「鍛冶」という神事の一環だ。
奉納まできっちりやっているわけではないが、鍛冶はただの物作りではなく、魔術的・宗教的な要素を含むのは間違いない。
彼らの場合は、踊りで何かイベントを引き起こしているのかも知れない。
とりあえず録画データの提出以外に何か出来ないか、考えよう。
踊りが終わったタイミングで何か起きるかも知れないので、それに備えるのは大事だが、報告用に何かした方が良い。
再現試験とか、やるだろうからね。
試してみたけど何も起こりませんでした、とはいかないのである。
いつまで踊っているかは知らないけど、踊り終わるまでに出来そうなこと。
さすがに集音マイクは意味が無いし、口元は見えたり見えなかったりなので、読唇術というのも難しい。
たぶん、歌とか祝詞とか、そういったものもセットだろう……か?
いや、よくよく考えてみれば、そこまで特定の専門知識が必要そうな、本格的なことを彼らが出来たとは思えない。
連中はどうやって正解を引き当てたんだよって話である。
あんまり行動が限定されると、誰もイベントを引き起こせなくなるじゃないか。
音楽とかは必要でも、そこまでジャンルが重要ではない、とか。
なんにせよ、やってみない事には始まらないな。
なお、踊ってる連中を止めるつもりは、一切無い。
何かが起きる可能性はダンジョンに潜っている全員が理解しているし、今更覚悟を問うのも馬鹿らしい。
ただ、迷惑行為を隠れてやっている連中がいれば、それを白日の下にさらすだけ。
その後の話、責任の所在やら何やらは、偉い人が頭を悩ませる事だから。俺が考える事じゃないのであった。




