怪しい冒険者の調査③
「なるほど。そっちでは冒険者を見かけなかったと。ありがとうございます」
「俺らが気が付かなかっただけかもしれんよ。あんま、信用するなよ」
「いえいえ。助かりました」
業務外で他の冒険者に話しかけてみた俺。
やってみれば大した事は無く、躊躇してしまったのはただの被害妄想、気にしすぎただけだった。
話はちゃんと聞いてもらえるし、特に排他的と言うこともない。
実際に声をかけてみた感触としては、やっぱり大丈夫だろうという印象を強めるだけだった。
自分の中の印象に引きずられるのは良くないのかもしれないけど、それを言い出したら何も出来なくなるし、事実と主観を分けて報告すれば問題ない。
他人は無条件で敵というわけじゃないし、疑わなきゃいけないものでもない。
まぁ、不審な冒険者の調査って話があるにはあるけど。そう疑ってばかりで生きていくのは辛いんだよ。
たまには気楽に話しかけるぐらいでちょうど良いみたいだ。
他の冒険者から情報を引き出せたことで、こっちで調べた以上に色々と知れた。
その甲斐あって、何かがあるかも知れない「次の調査地候補」が決まる。
「じゃ、明日の探索は光織たちと一緒に動くから」
「わーい!」
「くっ。仕方がありませんね」
結果が出せそうな探索に連れて行くのは三人娘。
光織たちが喜ぶそばで、ティターンサイドは悔しそうだが、これは公平な順番なので受け入れて貰う。
今日の探索より明日の探索で見つかる可能性が高いのは確かだけど、明日見つかるのが確定というわけでもないんだ。
その場合は、コイオスとクレイオスの方がもっと確度の高くなった情報で動ける。
どちらがアタリを引くかは運だよ思うよ。
それに、アタリを引いた方が評価が高いとか、そんなことも無いからね?
そうやって探索に出かけたわけだが、見事、不審な冒険者を見付けた。
こちらの把握していない冒険者チームが、拠点キャンプからずいぶん離れた所でドラゴンと戦っている。
なお、ここは4日目のキャンプからここまで来るなら、5日目キャンプを経由した方が何かと都合が良い場所である。
「パターン黒。人間です」
「干渉しますか?」
「それとも、ヤっちゃう?」
「や、ら、な、い、よ。干渉も無しだ。まずは様子を見る」
遠く離れた所なので、まだ俺たちは察知されていないと考えられる。
こちらが気が付いたのは、相手がドラゴンと戦っているから。レドームですら索敵範囲外なので、気が付かれるリスクは小さいはず。
モンスターと遭遇してしまえばバレるだろうが、連中が先に周囲を清掃していたのだろう。近くにモンスターの反応は無い。
よって、隠れたまま、様子を窺うだけの余裕があるはずだ。
三人娘は怪しい連中を捕まえてしまえとばかりに俺を焚き付けるが、そんなことはしないよ。
せっかくの拠点キャンプを使わないのは怪しいと思うものの、捕まえなきゃいけないのかも分からないし。いきなり強硬な態度を取るのは、どうかと思う。
だからしばらくは様子を見るだけに留める。
怪しい連中をレドームで探れる範囲ギリギリまで移動した俺たちは、見失わないよう注意しつつ、あとを付けることにした。
あとは、たまにになるけど、晴海が望遠モードで目視している。
帰りが遅くなるが、そこはダンジョンなのだし、不測の自体があると思って貰う。
残してきたタイタンたちだけでは他の冒険者から文句が出るかも知れないけど、仕方がないんだよ。
タイタンだけでも物資の管理はちゃんと出来るので、怒らないで欲しい。
何が出てくるか。
なにかしら、無限湧きしたあのモンスターの出し方とか、そのヒントでも分かると良いんだけど。
レドームでは細かい情報が手に入らないし、なんとか晴海の視線の通る所で動いてくれるといいんだけどな。




