問題山積み(乗っ取り)
「こちらが頼まれていた大きめのロボットの3D画像になります」
古巣の事など気にもかけていませんといった様子で、及川准教授はパソコンの画面を見せてくれる。
そこには、原神を大きくしたようなものではなく、もっとゴツイ、重機のようなロボットが映し出されていた。
「このロボットの開発コードは後で話し合いましょう。こちらが要望の物の完成図になります。
一応ですが、最終的な目標、パワードスーツを意識して内部に空洞を作ってありますよ」
このロボット、名前はまだ無いようだ。
開発コードと言われたけど、俺に名付けのセンスは期待できないんだが。
「参考に聞かせて欲しいんですけど、『原神』の開発コードはどういった経緯で?」
「うーん。神様は、己を模して人を作った。もしくは、人は神の子であるとされていますよね。
だったら、人の姿をして人を越える存在は、神に近しいものであると。そういう事も言える訳です。
機械仕掛けの神。そちらから名前を取るにしても、まだまだ発展途上の技術では名前に負けてしまいます。そこで、作られた物は神の雛型、原型であるから『原神』であると。
そういう理由ですね」
「……ありがとうございます。参考にさせていただきます」
聞いてみると、成程と思うような話であった。
『原神』という開発コードには、開発者の考え、願い、そういった諸々が込められているようだ。
直接、原神に近い名前を付ける事は無いけど、それでも参考にはなったな。
と、そんなことを考えていると、及川准教授から待ったが掛かった。
「あまり参考にされない方が良いと思いますよ。こちらは原神とは全く違うコンセプトのロボットになりますし、何より原神と関係するロボットと思われる事は一文字さんの不利益になりますから」
「原神と関りがあると思われると、不利益? 原神はいきなり300体も発注がかかる好スタートじゃないですか。悪いイメージではないと思いますが」
「これから悪くなるんですよ。間違いありません」
及川准教授は、原神の先は暗いと断言した。
そうか?
自分も原神と長く一緒にいて、ダンジョンで戦わせて。
取り立てて不満など無いし、不人気ダンジョンでゴブリンと戦わせるだけなら問題は起きない。
特殊な地形であれば何かあるかもしれないが、最初は相手も慎重になるだろうから、国が管理するいくつかの不人気ダンジョンの管理を任されるだけだろうし、すぐには何事も無いと思うんだけど。
「そうではありませんよ。問題は、原神のパテント、ライセンス料が余所に持っていかれるからですね。開発チームが同じだからと、こちらのロボットのパテントにまで影響したら目も当てられませんよ」
「え?」
「十中八九、原神のパテントは持っていかれますね。でなければ、いきなり300体もの発注は行われませんよ」
話が唐突過ぎて、付いて行けない。
俺は詳しく話を聞いてみる事にした。
「要は、会社の乗っ取りですよ。自衛隊がやっているのでもっと別の目的があるのかもしれませんが、これは会社乗っ取りのための、古典的な手法なんです」
なんでも、技術だけある、できたばかりの小さな会社ではよくある話らしい。
最初に大口の仕事を振り込む。
そうすると、相手はそれに対応するために無茶苦茶忙しくなり、思考が鈍って隙ができる。忙しさもあるが、成功体験による油断も誘えるらしい。
会社にとっては大口でも、客にしてみれば小金である。そういった常識の差が、警戒心を解く。
その後に、銀行や投資家などを使って事業の拡大を唆せる。
仕事が入った。手が回らない。だったら、新しい工場を建てましょう。今後は今ほどの仕事は見込めないかもしれませんが、もしも同じような依頼が来たとしたら、「もう手が回りません」とチャンスを逃がしてしまいますよ。
そうして「きっと上手くいきますよ」と金を貸し、会社を沼に嵌めるのだ。
実際、原神は300台どころか、もっと売れるポテンシャルを秘めている。
だから今の経営陣はその誘いに乗るだろう。
それが罠であると気が付かずに。
「実際に、原神“しか”売っていないなら問題なんて無いんですけどね。ですが、この波を逃すほど、世の中は甘くありません。
おそらくですが、あと1ヶ月もすると、大企業も同じような商品を売りに出すでしょうね。いえ、もっと早いかもしれません。
しかも、売りに出されるのは同等の性能の物でもっと安くなっている。大企業と小規模な会社では競争にもなりません。
そうして原神は売れ残るんです。きっと」
あとは工場と一緒にできた借金が残るだけ。
そうして、色々と手放さねばならない状態になると。
昔の金貸しは、そうやっていろんな会社を食い物にしていたと及川准教授は言う。
「今はそこまであくどく出来るものではありませんが、それでも、今回の件はそれと似たような気配がします。近寄らない方が良いんですよ。
四宮教授も、こうなってはすぐにこちらに合流すると思いますよ」
なんだか、とても大変そうである。
本当に大丈夫なんだろうかと、俺は不安になるのだった。