俺はこうして暇を持て余した
「うーん。暇だ」
大金を手に入れて約一ヶ月。
俺はいきなり暇を持て余していた。
それというのも、仕方が無いんだ。俺はこれまで休みなどロクに無かったので、ここまで休みが長いと、やる事が無くなってしまうのだ。
金目当ての馬鹿対策に友人連中にも連絡先を告げていないから、連絡も取れない。
スマホは以前のものもそのままなんだけど、電話は常に鳴りっぱなし、メールなども一ヶ月で数万件が届いて見る気にならず、放置してある。
もう面倒臭いので、前のものは馬鹿対策にそのまま置いていて、新しいスマホを購入した。
新しい番号が知られるまでは平和だろう。
スマホも買ったが、家と土地、車も買った。
買った土地は長野県南部の山をいくつか。
土地だけでなく家付きではあったが、俺なら気にならないような“とある問題”のため1千万ちょいで売っていたので即決で購入した。
新居は程よく不便なので、人の出入りを管理しやすく、余計な来客が無いのが素晴らしい。
普段は私有地という事で立ち入り禁止にしてしまえば、客の相手などしなくても済む。
買い物に行くための車もあわせて買ったので、俺の移動も問題ないしな。
そうやって大きい買い物をしたときは、まだ何も考えてなかったんだよ。
家の周りに小さな畑を作って野菜を育てたり、半分放し飼いの鶏から卵を取ったりしながら生活していたんだけど、どうにも暇で、生活に張り合いが無い。
切った張ったの殺伐とした生活が長かったせいか、平和に慣れていないのかもしれない。もしくは、一人なのがいけないのかもしれない。
漫画にゲーム、小説、映画やドラマと、一人で楽しめるものに色々と手を出してみたが、どうもしっくりと来ない。
楽しみだったソロキャンプも、冒険者時代を思い出し、微妙な気分になってすぐに止めた。
もしかすると、近くに人が居ないから、面白くないのかもしれない。
一人きりというのは意外と心を蝕むものだと、今みたいな生活をして、初めて知ったよ。
まぁ、そんな訳で適当にフラフラしている。
一人でいる事は、投資だのなんだのと糞ウザい、胡散臭い金儲けの話を持ってくる連中と、寄付だの募金だのうるさい連中から距離を取るためだって事で仕方が無い。
せめて周りに人がいる所に居ようと、つい街中に足を運んでしまった。
街中と言っても、俺が歩いているのは田舎の総合百貨店の中だ。
ここ以外だと昼でも人がまばらで、車すらあまり通らない。
いや、昼間はみんな仕事だから、出歩いていないだけかもしれないけど。
「んー。やっぱ、今日もラーメンでいいか」
朝から適当に時間を潰していると、いつのまにか昼飯時になった。
何を食おうかと迷ったが、昨日と同じラーメン屋に行くことにした。
そこは博多ラーメンの店だが、本格博多ラーメンではなく、創作博多ラーメンを名乗る変わり種で、ネタのような味のメニューがある。
「焼き豚骨ラーメンでいいか」
店に入った俺は、タブレットで焼きそば風・汁なし豚骨ラーメンを頼むと、物が来るのを大人しく待っていた。
「――県のダンジョンで、またも死者が出ました。民間の管理ダンジョンでの死者は半年前にもありましたが――管理会社の管理体制を問われるものであり――」
店内に流れる、テレビのニュースが聞こえてきた。
それはダンジョンで人が死んだという、珍しくもなんともない話だった。
それが、冒険者ではない、民間人でなければ。
ダンジョンで冒険者が死ぬのはいつもの事だ。珍しくもなんともない。
しかし、ダンジョンで民間人が死ぬという事も、稀にある。
そういった事故が起こるダンジョンは、だいたいが民間の管理するダンジョンだ。
冒険者とか、自衛官とかが入らない、不人気ダンジョンである。
ダンジョンに出るモンスターは多様だが、中には雑魚しか出ない、しょうもないダンジョンも多くある。
そういったダンジョンは不人気ダンジョンとして、誰も攻略をしないのだ。
ダンジョンは攻略せずに放置すると、周囲にモンスターを吐き出す。
放出されたモンスターが人を襲えば、元となったダンジョンの地主が責任を取らねばならない。
それを防ぐためには人を入れモンスターを狩らないといけないのだが、不人気ダンジョンのドロップアイテムは糞安く、それで生活していくのは不可能というものばかり。何もせずにプロを呼ぶことはまずできない。
土地を売って逃げるというのも、難しい。
ダンジョン周辺の土地というのは危険度から安く見積もられるし、不人気ダンジョンでは逆にお金を渡さないと買ってもらえないという現象まで起きている。
土地を手放すだけでも嫌なのに、お金を払わねばならないとなるのは理不尽だと多くの人が思ってしまう。
地価が地価なので維持費は安くつくし、ダンジョンの安定化にはたまに冒険者を呼び込めばいい。
そうして土地をそのまま売らずに終わる。
そうなるとお国にどうにか頑張ってもらうものだが、実は、これを嫌がる地主が多い。
国に土地を返納するのにお金はかからない。
その代わり、地主の要求よりも多めの土地を持っていかれるからだ。
国も、ダンジョンを預かるのだから相応の管理体制を敷く。
その為には現地で監視体制を設けられるように、そういった事ができる建屋を設置したい。
国はその建屋を置くための土地も一緒に召し上げるのだ。それを拒否するのは難しく、譲渡する土地を望んだ範囲に抑えようとするのは非常に手間がかかる。
土地を持たない一般人は自分に被害が無い事から、この流れをどうにかしたいという動きは、今のところ無い。
民間人の政治家嫌いも手伝い、それを嫌って国と距離を取る方がいい、自分たちでどうにかしようと地主は選択する。
で、不人気ダンジョンの雑魚モンスターを侮り、自分たちでモンスターを倒そうとして、逆に殺されるまでが昔からよくある話。
冒険者のような専門の訓練を積んだ人間から見れば、不人気ダンジョンに居るのは雑魚モンスターと言えるけど、素人には強敵なのだ。どんなモンスターも、侮っていい相手ではない。
冒険者時代、小遣い稼ぎ程度に不人気ダンジョンで戦った事があった。
ドロップアイテムだけ見れば、一日で1万円いくかどうか。装備の消耗を考えれば赤字である。
それを補填するのが難しければ、地主が自分でどうにかするしかない。
かなり頭の痛い問題だろう。
一般的には負債でしかない不人気ダンジョン。
「あ。暇潰しにはなるか?」
ただ、今の俺であれば何の問題も無いわけで。
ニュースを見て浮かんだちょっとした思い付きを形にすべく、俺は動き出すのだった。