怪しい冒険者の調査②
最初の一回を除き、他の冒険者と出くわす事は無かった。
レドームによる索敵と、時々森の上に出ての目視確認を行ったので、行動した範囲からプラス5㎞は確認できた。
雑魚戦をしていればドラゴンも出てくるので、ここで隠密行動は難しい。
こちらの索敵を乗り越えてこそこそされたという事は無いだろう。
つまり、空振りだ。
これは推測になるんだけど、今回調べたい怪しい連中っていうのは、キャンプ地から直接、目的の場所には行かないと思うんだ。
と言うのも、目的地がどのキャンプから移動するのが最短だとか考えると、他の冒険者に行先がばれるリスクが高くなるからだ。
だから他のキャンプから移動をして、この5日目の拠点にやや近い、どこかで活動をしているのではないかと予想している。
もちろん、根拠のない推論なので、俺の行動がハズレを引くという可能性はある。
けど、ハズレだったとしても、「この日のこの辺りには誰も来ていなかった」という結果は残る。
それはそれで、次につながる一つの情報なので、無駄ではない。
自分の仕事には意味がある。
そう考えると、ただウロウロしているだけでも頑張れるというものだよ。
もっとも、ついでにモンスターと戦って稼いでいるので、意味が無い、なんてことは最初からないんだけど。
雑魚戦を重ね、時々ドラゴンも倒し、この日も夜になる前にキャンプへと戻った。
敵が強い分だけ稼ぎの効率がよくなっているはずで、帰った後のお宝開封が楽しみである。
同じような事を考えているチームは他にもあって、明日やってくるだろう運搬人に預ける荷物の整理をしているチームが目立つ。
何をいくつ預けたという情報に間違いが有ったら大損だし、そこは慎重にもなるよね。
どのトレジャーボックスがどのモンスターのものだったかわかるようにと、コンテナにきれいに並べ、運搬人に確認しやすいようにしていた。
そういう所で手間を惜しむのは良い冒険者じゃないからね。
細かいところまできっちりやっている人たちの方が、最終的に最速で上に行くものだ。
ここで手抜きをするような連中は、だいたい仕事も戦いもいい加減で、下の方で燻っているんだよ。「上の連中は何もわかっていない!」なんて酒を飲みながら愚痴っているんだ。
そうやって他の冒険者を観察していると、冒険者チーム同士でのやり取りもそれなりにあるのが分かった。
俺はあまりかかわりを持っていなかったが、他のチームはちゃんとしているようだった。
俺も昔は他の冒険者チームとよく話をして、コネを作り、教えを請い、自分の糧にしていたけど。ここ最近は忙しさもあって、昔馴染みと話す機会が減っている。
思えば、最近は全く思い出さなくなった史郎関連で頼って以来、ほぼ音信不通状態になってしまった。
高校時代に友人知人とも、同窓会すらまともにやっていないので、そっちとは絶縁状態といっても過言じゃない。それなりに仲が良く喧嘩一つしていないというのに、だ。
一度冒険者を引退した後の引っ越しで、物理的に距離が開いてしまったのが良くないのかもしれない。
職場だと関係が深い人とかが相手だと話もするけど、あんまりよくない傾向だよな。
調査もあるし、これを機に声をかけて、何かしら情報を聞き出してもいいかもしれない。
もともと人とは話せるんだ。俺はコミュ障ではない。……よな?
最近は仕事がらみの人間関係ばかりだったから、ちょっと自信がなくなってきた。
「どうしたんだい?」
「お腹でも空いた? 牛乳とアンパン食べる?」
「顔でも汚れたの?」
ちょっと自信を無くしたのが顔に出たのか。どうしてそんな顔をしているのかと、合流した三人娘が不思議そうにしていた。
キャンプとかで、俺が他の冒険者を見てこんな顔をしていた事が無かった、もしくはそれが珍しいから、要らぬ心配をかけてしまったようだ。
けどな、ひとこと言わせてほしい。
俺の顔は取り換え式じゃないぞ。
首から上が無くなっても生きているようにはなったが、新しいのに交換はしないからな。




