問題山積み(原神販売)
「投資をするのは正しい経営者であると思うがね。だがしかし、現在の労働力を遊ばせるだけの投資であるならば、それは無駄だと思わないかね?」
AIによる自動電話対応ソフトだけど、これはそこそこお高いコンピューターを利用する。
そこまでお金をかける意味があるのかと、四宮教授は俺に疑問を呈した。
「売らない、という話ではないよ。ただ、ちゃんと採算を考えた上での行動かどうかというお話さ。今の世の中、お金を貰えるんだからと何も考えずに商品を売るのは良くないからね。
それに、自分の売った物で職を失う人が出て、恨みを買うなどは避けたいのだよ」
四宮教授の言う事は正しい。
俺は便利だからと購入を検討したが、それが本当に必要かというと。
「今はまだ不要です。でも、今後、普通の仕事を始めた時にこの状況じゃあ、まともに仕事ができないと思いますので。ソフトは必要になると、そう考えます」
「素直に人で対応するという手もあるのだよ。専属のオペレーターを雇用するのも、解決策ではないかね?」
「どちらにせよ、これは無駄な負担だと思うので。その無駄をなくすためなら、多少の手入れはアリだと思いますよ。
それに、ああいった手合いの対応は人に任せるには負担が大きすぎますからね。機械任せの方が、最終的に安くつきますよ」
「ふむ。ちゃんとしたビジョンがあるなら構わないか。では、あとは任せておきたまえ」
将来的には必要になると判断した。
いま電話対応をしているのは、元々は金属加工の機械を扱う人たちだ。電話オペレーターではない。
本業を奪うような真似をするのなら躊躇するが、片手間対応の雑務を無くすのであれば気にする事も無いだろう。
俺は四宮教授にソフトを依頼すると、彼は笑って仕事を引き受けてくれた。
そうこうするうちに時間は経ち、原神のプロモーションムービーが大学で公開される運びとなった。
及川研究室を始め、関係している研究室のサイトにリンクが貼られた。
そこから先は原神の発注ページへと展開していくのだが、原神はどれほど売れるだろうか? 需要についてはそこそこあると思うが、値段で諦める人が多そうだ。
そうそう。
原神の4号機と5号機だけど、レベルアップはしたものの、人格は獲得できなかったようである。
理由に関しては不明。
原神が人格を獲得する条件が不明なので、人格獲得までの手順、条件を探る必要が出てきてしまった。
販売用に、10セット30体の原神の製作が始まっているが、調査のためにこいつらもダンジョンに投入する事になるかもしれない。
そんな事もあったのだが、それでも原神が人格を獲得した事については公開する事となっている。
隠しておいて、売却先で同じ事が起きた場合、責任問題になりかねないからだ。
これで「そんな事になるとは思ってもいませんでした」と言えるなら良いんだけど、実際は原神がレベルアップで人格を獲得する実例を知っている訳で。
嘘がバレた時の反動が怖すぎる。
そして嘘を暴く手段が増えつつある昨今、そんなリスクは背負えないと大学側は判断した。
と、いうのが原神に出資している大学側の、表の言い分。
実際は、俺にプレッシャーをかける事と思われる。
俺は40億円の件で姿を隠していたわけだから、あまり悪目立ちしたくないのが連中にバレている。
だから、人格アリの原神を確保している事で注目を浴びるのを嫌がると思われているのだ。
姑息ではあるが、確かに俺から原神を取り上げるために、効果的な一手だろうよ。
もしも売るとなった場合は、絶対にその他の企業とかに売ってしまおうと思っているがな。
ここまでされて大学に売るという選択肢なんか、絶対に無い!
そして、ムービー公開の前日。及川准教授から電話がかかって来た。
「一文字さん。原神が、もう売れました……。300体、作ってくれと」
「え?」
まさかではあるが、プロモーションムービー無しで、原神の購入要請が入ったようだ。
しかも、300体分。
生産は30体しか考えていなかったため、完全にキャパシティオーバーである。
作っている人たちのデスマーチが懸念される。
「どうするんですか?」
「ここまで大量に作る予定はありませんでした。ただ、お客様の名前が名前なので、作らないわけにはいかないですよ……」
「それは、俺が聞いても良いんですか?」
「ええ。原神を買うと言っているのは――自衛隊です。戦車1両買うよりも、原神を買う方がよほど費用対効果が良いと。そういう事らしいですね」
自衛隊か。
確かに、自衛隊はダンジョンの管理で忙しいからな。
その忙しさを緩和するためにロボットが有効であるなら、慣例など無くても取り入れもするか。
「もっとも、私は開発チームであり、販売にはあまり関わっていませんから。ここから先は気楽なものですけれどね。
……その開発チームでも干されつつありましたし」
及川准教授は、徐々に立場を失いつつあるらしい。
開発が終わったのだからと、用無し状態である。
世知辛い話だが、この先も何かされて報酬を支払わねばならなくなるのを避けたいようだ。
質が悪いとは思うが、一応は契約の範囲内らしい。
「そういう訳ですから、そちらのお仕事をメインに頑張らせてもらいますね」
問題はあるが、それが良い方に作用する事もあるようだ。
及川准教授が、正式に仲間となった。




