死と再生②
人間って、何だろうね?
生物学的なお話をするなら、レベルアップで魔法が使えるようになった時点で人間をやめていると思うわけだが。
魔法を人間が持つ拡張性、可能性の一つとして定義した場合、今の俺はまだ人間と名乗っていいのだろうか?
普通の人間は、脳みそが半分ぐらい吹っ飛んだ時点で死ぬんだよな。
――それで死なない俺は、まだ人間なのだろうか?
ティターンから飛び出してきた中の人。
それに生身の頭部を貫かれ、普通なら死ぬはずだった俺。
なぜかまだ思考能力は健在。死んだという意識もなく、体も動くので、俺を倒したと判断したティターンの不意を打ち、カウンター気味に無事な拳を押し当て。
「インパクト」
口を動かし、一言つぶやいて、ナックルバンカーを起動。
仕返しとばかりに中の人の左胸のあたりをぶち抜いてやった。
左胸とはいえ、そこにティターンの心臓部があるとか、そういった話はない。
だが体を大きく損傷すれば、それまで通りの戦いができるはずもない。
それこそ、頭をぶち抜かれてなお動く俺が異常なのだ。モンスターであるティターンが驚くぐらいに。
動きが悪くなれば、これまで通りとはいかない。
どれだけ先を読めたところで、未来に干渉するには相応のスペックが必要。大ダメージを負った体ではこちらの動きを予測できたとしても、回避も防御も間に合ってくれない。
光織の斧がティターンを両断し、四対一の戦いは決着がついた。
そうやって一体片付ければ、形勢は逆転。あとは残敵を片付けるだけである。
だけど。
「あ、しばらく動けないかな、これは」
まだ戦いは続いているのでオケアノスのところに行った方がいいんだけど、それでも俺は動けなかった。
ぶち抜かれた頭は、ゆっくりとだが再生し始めている。
いや、再構築かな? 怪我が治っているというより、直っていると言った方がしっくりくる状態だ。
再生を阻害しないためにも、戦闘は控え、この場に残るべきだった。
落ち着いたことで自覚を始めるが、どうやら俺は人間をやめたらしい。
人間に限りなく近いモンスターになってしまったようだ。
石仮面、被っていないんだけどね。
それとも、現代のパワードスーツは石仮面であったか。
この俺の目をもってしても見抜けなんだわ。
……吸血鬼になったわけじゃないから、やっぱ違うか。
冗談はさておき、俺の現状。
生身の頭が使われていないとか、そういったことはない。脳みそは脳みそで仕事をしている。
ただ、お守り程度に胸ポケットに入れていたスマホ、纏っているパワードスーツとほぼ一体化していて、それで一つの生き物と言える状態になっていた。
だから生身の肉体が破損しようが、時間をかけ魔力を使えば復活できる。
さすがにこれで「俺は人間です」などとは言えない。
光織たちがレベルアップにより自我を得て、一つの生き物となったように。俺は俺で、レベルアップを重ね特殊な生き物になってしまったのだろう。
ある程度条件が揃ったところで死を経験し、覚醒したんだろうな。屍解仙とか、そんなものに。
なお、パワードスーツの着脱は普通にできる。
今まで通り、生身で動いて問題ない。
ただ、そちらとリンクするためなのか、スマホは持ち歩かないとNGのようである。
……このスマホ、お札の代わりなのか?
「俺って、普通に死ねるのか?」
自覚できることは多々あれど、自分の事とは言え、分からないことは多い。
一つ一つ検証していくことになるけど、これ、さすがに他の人には言えないよなぁ。周囲に広まった時の反応が怖すぎる。
普段から及川教授や四宮教授に相談をしている身としては、相談相手がいないというのは精神的に厳しい。
どうしようか。
どうするのが正解か。
それが分からないまま、俺は敵を倒し終えた光織たちを迎えるのだった。




