問題山積み(電話対応)
仕事が無いため、暇なはずの工場。
しかし工場で働く人員に、暇など一切無かった。
「一文字さんに――」
「この電話は鴻上工業のものです。一文字さんは関係ありません」
工場の稼働。
それに対する諸々への波紋。
一番大きな影響は、俺への連絡先が一つ見付かったと思われた事だった。
工場には、金を持っている俺から、その金を搾り取ろうとする連中がひっきりなしに電話をかけてきていた。
「オペレーターとしての仕事だけで一日終わるとは思っていませんでした」
「申し訳ない。電話は俺の名前が出た時点で、問答無用で切ってください」
「いえいえ。これぐらいは構いませんよ。
……他の仕事を、まだ取れていませんから」
工場のウェブサイトに俺の名前など無い。
資金提供で工場の権利関連を保有しているが、業務に関わっていないため、載せる必要がなかったからだ。
なのに、連中は俺が出資元である事を調べ上げ、金をよこせと群がってくる。
まったく。台所の黒い虫のような連中だな。
仕方がないので、俺の名前が出た時点で、電話対応は終わり。相手にしないようにしている。
中には鴻上さんに繋いでもらってから俺を出すように要求してくるのもいるし、確実に仕事の邪魔をしている。
鴻上さんは気にしなくていいと言っているが、こちらが本来不要な負荷をかけているのは事実である。
これらの業務には迷惑料を支払うべきだろうな。
と、思っていたんだけど。
一人は、スマホを弄りながら電話対応。
別の一人は、パソコンでゲームをしながら。
更に別の一人は、何かの勉強の片手間で。
全員、仕事とは思えない、舐めた態度で電話対応をしていた。
相手がアホしか居ないと分かりきっているため、割り切った行動に出ていた。
鴻上さんも、自分が電話を掛ける相手を優先し、会社の番号にかけてきた電話は後回しにするから問題ないと言い切る。
工場の従業員一同、意外と図太かった。
急にまともな取引相手が現れたとき、大丈夫かね?
まぁ、変なストレスを抱え込まれるよりはマシだけど。別の意味で心配になってしまう。
なお、かかってきた電話は、切ったあとに着信拒否設定しているため、同じ相手には連突されない。
非表示は最初から除外しているし、面倒は最小限に抑えている。
それでも電話が鳴り続けるというのだから、なかなか酷い世の中だと思わされるよ。
一方で、及川准教授と四宮教授も、俺の関係者として電話対応に、などとはなっていない。
「それは勿論。研究室の電話には色々と細工がしてあるんですよ」
及川准教授。何をしているかは教えてくれなかったが、既に電話攻勢を経験済みで、知り合い以外からは繋げられないように設定しているという。
連絡先登録していない番号を留守電に誘導するサービスもあるのだが、及川准教授のはその上位版みたいだ。知らずに電話をかけると、問答無用で着信拒否にしてしまうのだという。
「あれ? 俺は及川研究室に、普通に電話で連絡しましたよね。
なんで大丈夫だったんですか?」
「それは、秘密です。さすがにこれを教えることはできませんね」
そうなると、過去に俺が及川研究室に金属の特性調査を依頼できたのはどういうことだ?
気になって聞いてみたけど、方法は教えてもらえなかった。
どうやら禁則事項らしい。及川准教授は未来人じゃないけど。
四宮教授はというと。
「電話はAI任せだね! 私はそちらの専門家だから!」
先にAIが無駄な相手を省いてくれるので、そんな連中からの電話は繋がらないらしい。
俺も試してみたら、四宮教授の声で対応された。
相手は相槌を打つだけだが、AIと言われても、教えてもらわないと気が付かない。
それで普通に話している気にさせられたが、途中で「そろそろ本人に代わるのだよ!」と言われ、四宮教授の電話に繋がった。
「一文字君とは、何度か電話で話しているからね! 声紋の認証がされたという事だよ!
何らかの理由で、知り合いであっても登録していない電話を使う事があるのだから、問答無用というわけにはいかないのさ!」
よく分からないが、高度な技術の産物というのだけは分かった。
現代のAIって、そこまでできるのか。
「今の原神の方が、よほど凄いのだがね? そこは分かっているかな?」
「いや、原神が凄いのはわかりますよ。でも、四宮教授の技術だって凄い事は変わらないじゃないですか」
それはそれ、これはこれ。
四宮教授は俺の称賛を素直に受け止められなくなっているが、素人目には「どちらも凄い」で終わる話だ。
謙遜する事はないと思うけど。
「あ。このAIのソフト、工場に導入できますか?」
「可能だとも。ただし、相応のスペックのマシンが必要になるのだよ」
どうせだから、頼るとしよう。
便利なものは使ってナンボだ。