ティターン、再び①
ちょっとだけ腹の探り合いをした打ち上げが終わった。
いや、一方的に色々と聞かされ、探られただけか。こちらからは直接情報を聞き出そうとしなかったからね。
そうしなかったのは、聞きたいことはお国からの通達を待つことにしたからだ。
俺の聞きたいこと、今回無限湧きをした敵ロボの召喚主についての情報。特にその発見方法。
これはおそらく、ラスダンで活動する冒険者全体で共有すべき情報になると判断したからである。であれば、国からのアナウンスがあると思われる。
後で教えて貰えるのであれば、この場で聞き出し、貸し借りが派生するような状況を避けるべき。
召喚主はこれまで未発見だった特殊モンスターだし、あの場で慌てて聞き出すような情報ではないのだ。
もしもアナウンスが無かった場合は、召喚主はティターンと同じアイテム召喚などの、通常は出現しない特殊パターン。
特殊な条件を整えるタイプであれば、その条件ぐらいは提示されるだろうと考えられる。
どちらにせよ、最低限の情報は手に入ると思うよ。
いくら現場を知らない国だって、ラスダンに挑める貴重な冒険者を無意味に死なせる真似はしないだろうさ。
「いや、聞き出せなかったのかよ!」
「人、それをフラグと呼ぶのだよ!」
「まぁ、冒険者にだって最低限の企業秘密、隠しておきたい秘密を守る権利は有りますからね。
あまり強硬に情報の抜き出しと分配を行えば、それは反感も買うでしょう。
貴重な冒険者を死なせたくないという気持ちは有るでしょうが、その冒険者から反感を買いたくないという気持ちが優先されたのでしょうね。
我々自身、いくつもの秘密を抱えたままですし」
結論を言うと、召喚主の情報は一切貰えなかった。
国は、速水さんたちから情報を抜き出せなかったのである。
犯罪性が無いので、情報の提出を拒まれてしまえば、冒険記録の強制開示は請求できない。
推測になるけど、召喚主のドロップがお気に召したからだろうな。それこそ、うちのオケアノスと同格のロボが手に入ったのかもしれない。
そうであれば秘匿し、利益を独占したいと思うのは自然な流れだ。
この件で特例を作り、情報の開示請求が出来る流れを作られて嬉しくないのは俺も同じ。むしろ俺の方が被害が大きい可能性すらある。
残念だが大人しく待つか、自力で召喚主の探索を目指すしか無い。
低いリスクのために、不要なリスクを発生させ、長期的なコストを払いたくもない。
リスクマネジメントの基本は、リスク発生の頻度、リスクの危険度、リスクに近付く可能性を考慮する。
この場合は危険度以外が低いので、危険度を下げる別アプローチでも問題なかった。
「要は、戦って勝てれば良いんです。安定して戦えれば良いんです。
無限湧きするあのロボに対し、余裕を持って対処できるようになれば、召喚主の情報を聞き出せなくともなんとかなります。
メタを考えるのが悪いとは言いませんが、それよりも戦力の拡充を目指すのが王道で間違いのない基本方針ですよ」
タダで情報が手に入らなかったのは残念だが、これは俺の想定が甘かったというだけだ。
そして致命的でもなんでもない。
俺は別方向の対策を行い、次に望むことにした。
「そうは言うがね。ドラゴン対策をして、敵ロボットの対策もして。
全てが上手くいく手段などないのだよ? タイタンたちの性能がトレードオフというのは、一文字君だってよく分かっているはずだよ」
「レベル上げを継続するという意味ですか? そうであれば、即効性は無くとも、確かに王道の強化になりますが」
俺の意見に対し、二人の反応は微妙であった。
「即効性があり何もかも上手くいく選択肢」など、存在しないと分かっているからだ。
そんなものが有るなら既にやっていると、そういう訳である。
「いえいえ。ラスダンでレベル上げ、という話じゃなくてですね」
これまでそれやってなかったのは、理由がある。
これまでそれが出来なかったのだ。
願った通りの結果にはならないと思うけど、それなりに効果が見込める強化プランである。
「ドロップ品の品質向上のためしばらくチャージ期間をおいた、ティターンの討伐を再開するだけですよ」
久しぶりに『緑狼の森』に行こうと、それだけの話なのだ。




