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イレギュラー⑤

 ロボタイプの敵。繰り返される増援。見えない敵の探索。召喚タイプのモンスター。

 他のダンジョンだが、すでに似たような経験をしているため、混乱はしない。


 とは言え、別ダンジョンのギミックである。

 全く違った対処が求められるかもしれないので、そのことは念頭に置いておく。

 他所で上手く言った経験を引きずって、見当違いな事をしては目も当てられない。


「範囲内に敵はいないよ」

「どうしますか?」

「撤退? 後ろに向かって前進?」


 そうこうするうちに、三人娘が「レーダーに敵影無し」と告げてきた。

 どうやら、今回の敵は前回と違ったパターンらしい。もしかしたら同時に残り半分を撃破しないといけないとか、別のギミックだったのかもしれないな。

 兎に角このままではジリ貧だと、三人娘は撤退を求めてくる。



「それも、無理っぽいけどね」


 確かに、自分が生き残ることを優先するならそれもアリだろう。

 先に逃げていた人たちのように、他を巻き込まないように逃げていけばルール違反ではない。

 けど、こいつらは俺たちより早い。逃げ切るためには生贄を用意しないといけない。そんなのは御免だ。


 それに、だ。


「タイムアップなんだよなぁ」


 考えていた一番嫌な展開。

 遠方より飛来する敵影が確認されている。ドラゴンの参戦が始まりそうだった。





 予想された最悪の状況だ。


「三人娘、悪いがドラゴンを任せる!」


 こうなると、敵ロボの相手をしつつ、ドラゴンの相手もしないといけない。


 こちらが取りうる手段は二正面作戦である。

 ドラゴンの知能は高いので、下手に敵ロボどもと共闘されると厄介だ。

 戦場を二つに分けた方が安定するだろう。



 肝心の戦力配分だが、ドラゴンを速攻で倒せそうなチームを作るとなると、三人娘をまとめて動かすのが一番だ。

 できれば俺もそちらに行って最速でケリをつけたいところだが、そうなると敵ロボの押さえが弱くなりすぎる。俺は対ロボ戦線から外れられない。

 現状では、これでもギリギリだ。


「ここで下手なフラグは立てるなよ。ネタは要らん」

「えー」

「横暴」

「そんな事しないのに~」


 だから、別れ際の言葉は無しだ。

 下手に何か言わせると、死亡フラグが建築されかねん。

 それを残念がる三人娘だったが、俺は敵に固定した視線を彼女らに向けず、そのまま送り出した。





 無理をしてまで助けるべきじゃなかったか。


 三人娘を送り出した俺は、心の中で独り()ちた。

 あの三人の前で弱音は吐けなかったが、送り出し居なくなってみれば弱気な言葉が浮かんでくる。

 これじゃあ、まるで娘の前で強がってみせる父親のようなものだ。


 苦境に陥った誰かを見捨てない。言葉にすれば綺麗なものだ。

 だがそんな良い所を見せようとした、人として恥じない振る舞いをしようとしたのは、あの三人の目が有ったからなんだろう。

 そう考えると、自分の打算的な部分を笑いたくもなる。



 目の前の敵ロボは、単体性能だけを見れば俺よりも下だ。

 しかし、こちらの主力である三人娘を欠き、数が互角となると、敵の方が有利である。


 敵は多少の負傷は無かったことになるし、体力は無尽蔵で、倒したところでお替りが来る。

 こうなると、倒さず再生を阻害していく方が賢い方法となり、手間がかかる。

 それに何より、こちらが相手より強いといえるのは、後先考えない出力全開状態だからだ。過剰出力状態ではパワードスーツに負荷がかかるし、エネルギーの消耗が激しい。そう長くは続かない。

 あと30分もすれば、終わりが見えてしまう。



「ああっ!? くそっ!」


 俺が敵ロボの足を増やすことで動けない状態にしてみたら、別の敵ロボがその動けない奴を攻撃し、あっさりと倒してみせた。

 どうやら、敵は仲間の攻撃を受けても再生しないらしい。

 ついでに、敵は戦力外でも生き残っている仲間がいれば、その仲間の介錯をするところまで戦術に組み込んでいる。役立たずを増やして安全に戦うのは駄目のようだ。


 敵の数が減ったことで、また増援が追加された。

 バッテリー残量はすでに半分を割った。

 出力を落として戦闘可能な時間を増やしたところで、本当に勝てるだろうか。


 少し離れたところでは、三人娘がドラゴンと戦っている。

 戦いの余波こそ届いていないが、空を飛ぶドラゴンはブレスを吐き、元気に三人娘を迎え撃っている。

 ここからでもすぐに倒せる状況でないのが分かった。


 仲間を捨て石にする“最悪”を想定する時が来たかと、俺は苦虫を噛み潰した。

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