準備中の嫌な話①
装備の開発、その習熟とレベルアップなど、ドラゴン戦の準備を整えていく。
こういった準備は割と楽しい。
ゲームなんかのレベル上げを楽しむようなものだからだ。リアルとフィクションの違いはあれど、言葉にすると同じなんだよな。
けど、リアルの準備では、もっと面倒臭くて、やりたくない準備というのもあったりする。
それは主に、対外的な根回しや調整である。
自分のダンジョンで暴れ回る分には何の問題も無いんだけど、限定的とはいえパブリックなダンジョンに入る以上、他の人と予定を合わせたりしないと、大変なのだ。
俺たちは隠し事が多いので、無駄なブッキングは避けていくのが最善。
余計なトラブルはお帰りください。そんなわけである。
ラストダンジョンは国の管轄であり、直轄は自衛隊になる。
なので、自衛隊の人とお話をしていたのだが、そのついでと言う事で、ワームダンジョンの時にお世話になった隊長さんから声をかけられた。
「ちゃんと戦えているではないか」
「いいえ。まだまだ自身の未熟を恥じるばかりです。勝てはしますが、安定して戦うにはほど遠く、今も準備をしている所ですよ」
「多少の苦戦もまた経験だ。苦い経験の中でしか培われないものも、世の中には有るのだよ」
「その苦い経験のために仲間を失うのも馬鹿らしいではありませんか。人もロボットも、そう簡単に補充がきくものではありませんし、使い捨てにするような真似は出来ませんよ。
冒険者とは言われていますが、わざわざ避けられる危険を敢えて冒すような真似をするのは、冒険者ではなく愚者の間違いでしょう」
「だが、結果は出た。いや、出せたのだが」
「ええ、結果論ですね」
言い方は悪いが、話している内容ははただの無駄な雑談で、中身の無いシロモノである。
交流を深めた事実の積み重ねを作る事そのものが目的であり、話す内容にそこまでどちらも拘ってはいない。むしろ、無難な話に抑えておく方が都合が良い。
ただ、そんな無難な話から一歩踏み込んだ話題に移った。
互いの近況ついでに、ラスダンでの戦いぶりについて口を挟まれたのだ。
あちらの勧めがあって挑む事になったわけで、そこで上手くいっているようであれば、それは勧めた人間の功績となる。
食わず嫌いを矯正したような感覚と言えば良いのだろうか。そんな事でマウントを取られたくは無いけど、取れるマウントを取って恩の押し売りをされた気分になる。
正直、俺の印象では「恩を売られた」ではなく「厄介ごとを押し付けられた」わけなんだがな。
だから面白くないと言った顔をしてみせると、隊長さんは「そこまで言わなくても良いだろう」といった顔で、「あれは必要な事だった」といった方向で話をまとめようとしてくる。
こちらはそれを否定し、「恩の押し売りをするなよ」とオブラート薄めに反撃する。
喧嘩をしたいわけではないから、お互い決定的に仲違いしない程度に、言葉を刃にして打ち合った。
俺たちは仲良しこよしの関係じゃないというのもあるが、お互いに歩み寄りたいと考えている。
なので、こういったやりとりも仲良くするために必要と判断されたわけだ。
仲が良いというのは、互いの悪い所に目を向けない馴れ合いではなく、正しい事、思っている事をちゃんと言い合える関係だからね。
勿論、大人なので多少の配慮はするけど、内心を隠すだけでは対等とは言わんよ。
そうやってそれなりに会話を続け、そろそろ俺が帰ろうという段になって、隊長さんは最後だからと爆弾をパスしてきた。
「一文字君。そういえば、君はそろそろ身を固めようとは考えていないのかね?」
ある意味、俺のプライベートにおいて最も繊細で最大の禁句をぶっ込んできた。
一瞬だけ「余計なお世話じゃボケ!」と言う言葉が頭をよぎったのは、仕方のない事である。
そうか、その話を俺に振るかぁ。




