ラスダン用装備②
飛ぶのは危険だけど、着地の時に衝撃を緩和する装置というのも有ると助かる。
しかしジェットホバーなどがロボゲー・ロボットアニメではよく見かける装備だけど、実際に運用するとなると、かなり難しい。
「ヴァリアブルスラスターは、あくまで補助にしかなりませんよ。出力を大きくすると接合部への負担が大きすぎます。レベルアップで解決するかもしれませんが、ロールアウト直後は注意してください。
それと、連続使用、長時間の使用はできない事にも注意してください。ユニットが耐えられません。こちらもレベルアップ待ちですね。
とにかく、そのままではまともに使えない装備であることを認識し、強化に努めてください」
可変スラスターを用意してみたが、及川教授からは口を酸っぱくして「過度な期待はするな」と言われた。完全な趣味装備で、現状ではデッドウェイトでしかないという評価だからだ。
それもそのはずで、さすがに1トンとは言わないものの、バトルクロスはかなり重い。それを浮かせる――は言い過ぎで、落下時の衝撃を緩和させるための装置もまた、結構な重さになってしまう。
結局、「落下時の衝撃を緩和するために、機体重量を増大させた」という馬鹿な状況に陥ってしまっていた。重量軽減用の魔法金属を使っていても、そんなものである。
そもそも「人型」という形状がそういった事に向いていないので、どうしようもなかった。
そんな話は横に置き、次に考えるのは「ドラゴンの背中で暴れるための武器」である。
ドラゴンだって、背中に敵が乗ったと分かれば振り落とそうとするだろう。
急旋回のようなトンデモ機動こそしない、出来ないだろうが、それでも長時間、背中の上で暴れられるわけでは無い。
よって、短時間で効率よく、ドラゴンを飛べなくするほどのダメージを与えたい。
まず最初に改良するのは、参式パイルバンカーである。
参式パイルバンカーは足に取り付けられた、姿勢固定用の杭打ち機である。
これを使って振り落とされにくくすると同時に、ダメージを与えていきたい。
「まぁ、普段からマイナーチェンジしてるから、そこまで劇的に改造できる部分も無かったわけだけど」
「既存の装備を『これで良し』と放置するほど、我々は遊んでいませんので」
「ま、予算の都合で見送らなきゃいけなかった改造プランが残っていたみたいだし。そこに手を付けて貰うだけで済むのはありがたいね」
タイタンやバトルクロスの装備に関しては、常時更新、細かいアップデートを心がけている。
日々使用する装備の性能向上は、そのまま戦力の向上に直結する。手を抜いていい場所ではない。
他所の企業の中には、一回作ったら不具合の連絡が来るまで何もしないという無能な開発もいるのだろうが、ここにそんな奴はいない。
ユーザーと密で忌憚のないやりとりを行える環境があるので、ある意味常に監視されているような状態だからな。手の抜きようがない、怖い現場とも言う。
ま、やる気のある人間にとっては最高の環境だろうし、ついてこれなければ他に移って貰うだけだよ。
そんな訳で、参式パイルバンカーは普段からバージョンアップが行われている。
が、それが最善かというと、そうでもない。
予算や時間の都合で、どうしても手の回らない、後回しになっている部分が存在し、そのままなのだ。
これは手抜きしているという話ではなく、リソースの問題。
金、人、時間が無限にあれば、結構な人間が最善の行動を取れていると思うよ。でも、現実はそこまで出来ないので、「やりたいけど出来ない事」がどうしても残る。
今回は優先順位の変更という事で、参式に回す予算を増やしたりして、開発チームに頑張って貰うだけである。
その分、予算以外は他に回すリソースが削られるけど、それを言い出したら何も出来ないしね。出来る事を、出来るようにやっていくだけだよ。
なお、開発チームの予算は増やしても、人員増加の予定は今のところ、無い。
人員は多ければ多い方が良いというわけではなく、「統制が取れる範囲の最大数」を意識しないと、逆に効率が悪くなる。
それに人を増やしたら建屋も広げないといけないし、設備投資もシャレにならない。
「企業にとって維持は衰退、改良と改善は停滞、改革のみが歩を先に進める」という言葉があるが、開発チームを増やすのは改革レベルの投資になるのだ。
やるなら計画的に、長期的な目的を持ってやるべきである。突発的に「アレが欲しい」みたいな軽いノリでする事じゃない。
「第二工場を建てるにあたり、一文字さん所有の山を使うというのはどうでしょうか?」
「残念ながらね。山裾の近隣住人とのコンセンサスが得られないんだよ。ほら、川の水質悪化や土砂崩れが怖いってさ、ああ言った話」
「そういった事への対処も含めてきちんと話を進める用意があっても、ですか?」
「感情論は、どうにもならないよなぁ。市の方は協力してくれるみたいだけど」
そして、自分たちだけで済む話ではないので、周囲を巻き込んで、面倒な交渉ばかりになる。
担当者には、ボーナス出さないといけないよな、これ。




