ラストダンジョン③
俺はトカゲ人間に向け、腰の高さで剣を薙ぐ。
バトルクロス着用時の俺の体高はおよそ3m。リザードマンは人間と比べれば大柄な2m強だったが、それでも身長が腹と胸の間しかないわけで、腰の高さは首の高さである。
「首刈り」
つまり、首を刎ね飛ばすのにちょうどいい高さだったのである。
リザードマンはそれをかがんで回避しようと動いたが間に合わず、剣で側頭部を強打され、そのまま首の骨を折られて死んでいった。高レベルモンスターの頭蓋骨は精霊銀の剣でも切れないほど硬かった。
まぁ、頭蓋骨の硬さに魔力を使いすぎて、首の防御が弱くなっていたという話なんだけど。
ラストダンジョンのモンスターは、雑魚であるリザードマンだけを見ても、結構強い。
魔力の使い方が上手く、スペック的にはオーガより少し強いぐらいのはずなんだけど、技術でそれ以上の強さを発揮するタイプだった。
武器を使う腕はほぼ互角だが、体内の魔力を動かし、必要なところに必要なだけ魔力を使う。そういった、身体強化魔法に関しては俺より上だと思う。
ただ、俺はリザードマンよりも基本スペックが高く、装備も上だ。魔法の技術で負けていても他でゴリ押せるので、そこまで苦戦していない。
ただし、それは、1対1で戦う時の話であり。
「――おかわり。3時から追加20。全部トカゲ」
「空中の飛竜、残り5」
「11時にスネーク2。排除、任せます」
こちらの数と敵の数が拮抗していれば、であった。
敵の大群に押し込まれると、ちょっとキツイ。
ラスダンは、フィールドタイプのダンジョンである。
草原と森林の組み合わせの、『緑狼の森』のやや森が少ないバージョンだ。
出てくるモンスターは爬虫類的な鱗類メイン。リザードマン、ワイバーン、各種毒持ちの蛇系モンスターである。
サブ的に猪タイプのモンスターも出てくるが、こっちはレアらしいね。
あとは、なんといってもドラゴンが出る。雑魚戦をしばらくしていると出てくるらしい。
その頻度は入口だとあまりなくて、奥に進めば進んだ分だけ出やすくなるという。
そして2日分ぐらい奥に行くと、頻度が変わらなく代わりに、質が高くなる。見た目が同じままの、強いドラゴンが出てくるのだ。ついでにブレスの属性が変わる事もある。数が増えることもある。先頭の難易度はどんどん上がっていく。
現在は20日かけて300㎞ほど移動するのが限界らしい。
敵の密度が濃くなりすぎて、戦闘ばかりに時間をとられ、食料などがそこで尽きてしまうというのだ。
さすがに飲まず食わずで戦い続ける事は、最強の冒険者たちでもできはしない。
よって、現在はこれ以上先に進めないまま、膠着状態に陥っている。
なお、ダンジョン攻略の時は、複数の冒険者が協力し合って九条さんらの露払いをする。
九条さんらがダンジョンに行く数日前に最初の拠点を作り、物資をため込んだりする役の人を送り込む。ついでに、時間の許す限り間引きを行い、モンスターの密度を下げていく。
次のパーティがその拠点を利用し、次の拠点を作る。そこから次の拠点へ、次の拠点へと人とモノを運び込み、移動ルートのモンスターを排除していく。
九条さんのパーティは、そうやってお膳立てされた移動ルートを使い、数日分の距離を一気に駆け抜け、最前線にたどり着くと、次の拠点を作れそうな場所を開拓し、さらに先を目指すのだが。
結局、物資の移動に使う人数と距離の関係がボトルネックとなって先に進めなくなって終了である。
一応、参加者のレベルが徐々に上がっていくので、時間を賭ければ「いつかは」攻略できるようになるかもしれない。実際に、移動距離は昔と比べればずいぶん伸びている。
ただそのペースは亀の歩みであり、攻略まであと何年かかるのかも分からない。見通しが立たない以上、精神的にもかなりキツイ。そんな状態が続いている。
自衛隊がタイタンを購入したことで多少は余裕が出てきたものの、まだダンジョンが攻略できるほどでもない。余裕ができて、この状況なのだ。
超高額で取引されるラスダンのドロップアイテムの資産価値を見て「このままでもいいのではないか?」などと言う政治屋連中もいて、九条さんとしては面白くないと言っていた。いつかラスダンを自分の手で攻略したい九条さんは、ダンジョン内外のどちらでもストレスを溜めていて爆発しそうな雰囲気である。
命令しかできないお上と、実際に血を流す現場の齟齬は、ダンジョンでも問題だったようだ。
俺たちが頑張れば、その分だけ九条さんらのチームの負担も減る。
「お前らには本当に期待している」
期待に応えようという気持ちはそこまで強くないが、ラスダンの攻略には俺も興味がある。
初クリアの栄誉には興味が無いので、九条さんらに頑張ってもらい、今後も最前線の情報をもらえる程度に協力しようと思う。




