ラストダンジョン①
本当の実力は隠していた。
オリハルコンの槍や万華鋼のようなメイン武装は全部封印。ダンジョンドロップという特殊な出自の個体であるオケアノスは待機している。
本気で戦うなら、もっともっと、俺たちは強い。
ただ、それでも俺たちは強くなりすぎていたようで、自衛隊に警戒をされてしまった。
「リスク度外視で強くなろうとした」と思ってもらえればいいんだろうけど、何らかの隠し玉により、かなりブーストしていると思われた。
他の冒険者と比べ、結構ハイペースでダンジョン攻略をしていたので「これぐらいなら大丈夫」と考えていたんだけど、想定が甘かったようだ。
こうなると、信頼関係うんぬんかんぬんより、自衛隊という組織の性質上、俺たちに警戒心を持たないと拙いのだ。
当たり前だが、国防にかかわる組織の偉い人が危機管理能力皆無の脳みそお花畑では、守れるものも守れない。個人間の信頼関係を築こうが、組織人としての振る舞いを忘れてはいけないのである。
俺たちが実力を隠している、予想できない何かを持っているのであれば、自衛隊としては疑いの目を向けざるを得ないのだった。
「で、さっさとラスダンに行けと言われたわけですが」
「時期尚早ではないかね? さすがに準備不足は否めないのだよ。
以前いただいたデータから見るに、我々ではドラゴンに対抗しきれないことが予測される以上、今は地力を上げることに注力すべきだね」
「私も同感です。現地の情報を得つつ、準備を進めるというのも、確かに一つの手段ではありますが。今の状態でしたら、リスクマネジメントが機能しなくなる恐れがあります。反対です」
そんな自衛隊から、ラストダンジョンに行けるだけの実力があると言われたものの、まだ挑むべきでないというのが俺たちの共通した意見だ。
「漆式パイルバンカーならば、ドラゴンにも通用するだろうね。しかし、空中からブレスを吐くドラゴンをどうにかする手段に乏しい以上、打つ手が足りないのだよ」
問題は、対空攻撃の手段だ。
空を飛ぶドラゴンを落とすための武器が足りない。
「ハイパーハンマーのレベルアップも、まだまだですね。漆式と同じ機構を組み込むことも考えたのですけれど、万華鋼の追加生産、魔石の供給量を考えますと、現実的ではないという結論に至りました。
地道に現状のものをレベルアップさせ、既定の威力に到達させる方が有効、有益であるというのが開発チームの試算結果です」
何もしていないわけではないが、すぐにどうこうできるほど話は簡単ではなく、新規で何かするというのも適切ではない。
こういう場面では、いきなりすべてが上手くいく天才的なアイディアが出てくるという事など稀であり、奇抜でその場しのぎにもならないような思い付きに頼るより、積み重ねを大事にする方が近道だ。
何もしていないならともかく、動いていて進捗が確認できて、しかしまだ結果に結びついていないだけなら、テコ入れなどせず現状維持で十分である。強いて言うなら、追加予算を用意するぐらいだろうか。下手な事はしない方がマシだ。
「しかし、ダンジョン攻略はどうするのだね? 自衛隊のワームダンジョンが期待外れであったのなら、また『緑狼の森』にでも通うのかな」
「それも一つのやり方じゃないかと思います。エメラルドウルフの魔石を確保するだけでなく、販売用タイタンの育成もついでにやってしまうというのも、アリじゃないかなと思うようになりました。
アンデッドダンジョンでリビングメイルを狩るっていうのも考えましたが、あっちは臭いの関係であまり行きたくもありませんし。他のダンジョンはもう十分な人手を投入しているので、行く理由もありませんし」
なお、こうなると外の伝手を使って別のダンジョンに行こうとは思えない。
なんか、無理をさせられそうな気がするのだ。こちらの能力の上限を見るために。
だったら大人しくし、自分たちで確保しているダンジョンにこもっている方がまだマシである。
選択肢は少ないが、と言うか俺から見て一つしかないけど、何もできないというわけでもない。やれることをやっておけばいいかと、そうやって自分を納得させる。
「こうなると、九条さんにはしばらく戻ってきてほしくないな」
「強引にラスダンに連れていかれる未来が見えるようだよ」
「そこまでするでしょうか?」
「私は連れていかれる方に5000ペリ〇賭けてもいいのだよ」
「……それでは賭けが成立しませんね」
「嫌な未来を想像しないでもらえますかね!?」
なお、『緑狼の森』から次のダンジョンを探すとき、九条さんはラスダンに向かった直後で、しばらく戻ってこないと聞いていた。
ただ、その“しばらく”が過ぎるまであと少しであり、近日中には地上に帰ってくる予定である。
俺たちに適正なレベルのダンジョンを探してもらおうと思っていたが、連絡はとれていない。俺たちが高難易度ダンジョンを探していることは、まだ知らない。
なので、ことさら藪をつつくような真似さえしなければ、安全なはずなんだけど。
「絶対に連絡が行くのだよ」
「間違いありませんね」
「俺は、あの人の、理性に期待するよ」
俺は九条さんの事をあまり知らない。
だからこればかりは、俺にも予想ができなかった。




