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ワームダンジョン③

 何が便利で何が不便か。

 平坦な土地では大活躍のスレイプニルに荷物の大半を任せた俺たちは、ダンジョンの中を進む。



 アメリカ西部時代劇に出てくる荒野にも似た光景を進むと、風で巻き上げられた砂埃をブラインドに、コヨーテの集団が近づいてくるのが分かった。


「数は、100と少し。囲まれないように注意してください」


 コヨーテの大集団は、普通に考えたら脅威である。

 敵1体の戦力評価が低くても、集団となれば袋叩きにされる可能性が高く、数多の弱兵に個の戦力を覆されるのは俺たちもよくやる戦術なので知っている。

 たとえ背面まで視界がフォローされているロボットであろうと、どうしても一度に対応できる数には限りがあり、手数で押されればいずれは屈する。


 ……攻撃が通るのなら、だけどね。



「数で負けるなら、数を活かされないように立ち回ればいいだけなんだよね」

「ふはははははは! まるでコヨーテがゴミのようだ!!」

「無駄無駄無駄無駄!!」

「悲しいけど、彼我の戦力差が開きすぎているのよー。出荷なのよー」


 残念ながら、数で戦力差を覆すには、敵の手札が足りていなかった。

 思い返すのは、ティターンとの初戦。敵の装甲の前に手も足も出ず、抑え込まれそうになった、苦戦の記憶。あの時は魔法も駆使してなんとか倒せたけど、コヨーテにそんな戦法は無い。

 噛みつき、引っ搔きによる攻撃では、光織たちやタイタンたちにダメージが通らない。


 現実は最低ダメージが保証されたゲームでもなければ、「ダメージはゼロじゃ」が押し通る。

 コヨーテ程度では、タイタンに対するには完全に力不足であった。



「お。ハゲワシも追加」


 こうなってしまえば、空中への対処も楽なものだ。

 地上に向ける意識は最低限でも問題ないので、飛んでくるハゲワシを切り捨てるのも難しくない。


 一般的に、このハゲワシへの対処が大変なのは、地上のコヨーテの対応で手が回らないからだ。

 逆に言えば、コヨーテの相手が余裕なら、ハゲワシへの対処に苦戦はしない。

 空中の敵は、地上の敵ほど小回りが利かないので、予想される敵の移動コースに武器を置いておくだけの、簡単な仕事となった。



 最後の敵、ワームも「面倒くさい」敵だが、難敵と言えるほどの強さは無かった。


 俺たちは戦闘開始から、アースソナーを地面に打ち込んでいる。

 アースソナーは杭の形をしていて、複数の地点からそれぞれがタイミングをずらしつつ、波を発する。その波へのリターンから地中に何があるのかを測定し、さらにそれを複数台使うことで三次元的に地中の状態を把握できるようになる。


 杭一本だけでもそれなりに情報は集められるのだが、やはり複数の杭を使った方が精度が上がるし、見落としが無い。

 地中深くから近づいてくるワームも、その接近をあっさりと見破っていた。


「強酸の体液にだけは注意しないとな」


 こうなってしまえば、あとはでかくてタフな敵というだけで、今の俺たちならそこまで脅威でもない。

 デカブツ対応の大型武器も用意してあるので、火力不足になったりはしない。


 ただ、ワームは「土の中に含まれる栄養を消化するため」という設定なのか、体の一部に強酸性の体液を隠し持っている。

 ちゃんと耐酸性コーティングされた武器を使わないと、すぐに装備が駄目になってしまう。

 倒しきってしまえば体液も魔力に還元されるのだが、それまでは注意が必要だ。

 戦う時は、それだけ気を付けておけばいい。





「弱い。ぬるい。気合が、足りない」

「こんなものなのか? お前らの本気を見せてみろ!!」

「さよなら三角、また来て四角~」


 新しい敵と戦うのだ。注意して戦わなければ、などと思っていた。

 しかし蓋を開けてみれば、想像以上の楽勝モード。苦戦する気配など、みじんも無かった。


 冷静に考えてみれば、ウッドフェンリルと戦えるのが挑戦する基準になるようなダンジョンである。

 そのウッドフェンリルを雑魚扱いし、その先の敵、ティターンを戦闘の基準にしている俺たちなら、こうなるのもおかしな話ではなかった。戦闘における水準(レベル)がかなり上がっていたのだ。





 バトルクロスを纏った俺は、ワームを一刀のもと、切り捨てる。

 巨大な剣でワームの胴体を真っ二つにするが、その高い生命力に支えられ、すぐには死なない。だからとどめとばかりに、その体を追加で切り刻む。


 モンスター相手の残心は楽でいい。死体が消えるまでが戦闘なのだ。

 そうなっていないなら、追加で攻撃するのが常識である。

 どうせ、死体をどれだけ壊してしまおうが貰える物に変わりはなく、ただの(トレジャー)(ボックス)として収入が保証される。


「戦力さえ揃っているなら、ここっていい稼ぎ場だよな」

「その、“戦力を揃えられる”勢力が少ないので、ここは不人気なのです」


 別に手が足りないわけではないが、自衛隊のタイタンも普通にワームを処理していく。

 俺たちほどではないが、自衛隊のタイタンはここに特化している事もあり、手際の良さは俺たちにだって負けていない。


 飛び散る強酸の体液を魔法で防ぎつつ、俺は少し考える。

 自衛隊の景気が良いわけだ、と。


 自衛隊のような軍隊は、普通ならば金食い虫だ。

 ロボットをポンポンと買うような予算が下りるはずもなく、メンテだって滞るのが日本の自衛隊の常識だった。陸上自衛隊に配備されている戦車の半数が「金を惜しんでメンテをせず放置していたから動かなかった」という恐ろしい話も聞こえていたほどである。


 それがこうやって定期収入を得られる組織に生まれ変わったのだから、ロボットの(人員の)購入(増員)も活発に行おうというものだ。タイタンやバトルクロスの追加発注も、将来的な利益が保証されているのなら、多少の借金すら投資として認められる。

 世の中、金になるなら積極的に動き出す人間が多いのだ。特に、自分の財布が痛まないのであれば。人のリスクが無いとなれば、さらにその流れは加速する。



 ただ、そうやってロボットを奴隷のごとく働かせるためにも、ロボットに人権を認めるという流れにはならないんだろうなと、そんな懸念も抱いていた。

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