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ロボによる傷害事件

 冒険者っていう職業は、それなりの倫理観を求められるお仕事だ。

 武器を持ってモンスターと戦うのだから、プロの格闘家などと同じ扱いを受け、一般人に暴力をふるおうものなら厳しい判決が下ることになる。

 被害者側にそれを利用した悪質な振る舞いが認められた場合でも、暴力を振るってしまえば冒険者側が悪となってしまう。


 自衛のためには撮影機器の活用が必須で、相手の態度や言葉を少々プライバシーに配慮しつつネットに晒すなど、暴力とは違う形のカウンターで撃退することが求められる。

 日本という国は権利を盾にしたロクデナシ(真の加害者)を保護するのに熱心なので、冒険者をするのが大変なのだ。



 この事件もそのクチで、一般人を名乗る犯罪者が冒険者に喧嘩を売り殴りかかってきたのを、ギルドで借りたロボが護衛任務の一環で防いだ所、金属を殴った相手の拳が割れて騒ぎになったという、本当にくだらない事件である。


 普通に考えれば、殴りかかった奴が悪い。

 被害に遭った冒険者が行ったのは自衛権の行使であり、同じ冒険者である俺の視点では無罪が妥当だ。

 なのに、相手は「ロボットで拳を遮り、わざと自分に怪我をさせた」と主張し、自分こそが被害者だと冒険者を訴えたのだ。


 残念ながら、この状況における法律が味方するのは、相手の方だったりする。

 まず、怪我をしたのは相手だけだ。

 怪我をした理由は、冒険者の事前指示でロボットで身を守ったから。

 とち狂っているとしか思えないが、「相手が殴りかかってきた」事は「情状酌量の余地がある」という事で減刑の理由にはなるものの、完全無罪ではなく執行猶予付き程度の罰金刑になるというのが法律の専門家の見解であった。



 この流れに納得できる人間は、まずいないだろう。

 一般的な見解では「じゃあ殴りかかるなよ」であり、防いだだけなんだから、お咎め無しが当然だと考える。ネット上の声も、その意見が主流であった。


 ただ、どこの工作かは知らないが、それなりの数の人間が別の事を行っている。

「ロボットが人間を傷つけるなど、許されない」「ロボット三原則はどうした」などと、見当違いな意見を述べているのだ。


 ロボット三原則は優先順位の高いものから順に、「人間に危害を加えない」「人間の命令を聞け」「自分を守れ」といったものである。

 基本的に前の命令が優先され、この場合は「人間を傷つけるな」という最優先項目に抵触するというのが、彼らの主張だ。

 正直、馬鹿じゃ無いかと思っている。


 そもそもの話、「人間を傷つけるな」という命令そのものがナンセンスである。

 その前に「法律を守って行動している」と付いていれば良いのだが、犯罪者と一般市民と比較した場合、一般市民が傷つくのを守り、その結果として犯罪者が怪我をしようが、最悪は殺してしまっても構わないというのが俺の考えである。

 「人間の命は何よりも重い」「命の重さに変わりは無い」とは言うものの、罪無き人と犯罪者では、確実に前者を優先すべきだ。

 その状況判断がどこまで出来るのかっていう問題はあるけど、盲目的に「人間に危害を加えてはいけない」と命令するのは違うと思う。





 なお、やらかしたのは他社のロボットなんだけど、残念ながらロボット関連と冒険者関連で俺の名前と顔はかなり売れているので、いま冒険者ギルドに顔を出せば、マスコミに絡まれ、意見を求められる事になる。

 そうなった場合、どのような態度でどんな事を言おうが、社会的にダメージがくる。


 コネのある人の番組などに出演して、事前準備と打ち合わせをしっかりして喋るなら問題ないんだけどね。突撃取材のような形で意見を求められると、あまり良くない。

 俺の意見が変に切り取られる事もあるし、人権を主張するのが仕事の人権屋にしてみれば格好の攻撃の的にされるだろう。


 犯罪者であれ人命を軽く見るような事を言えば、絶対に叩かれるのだ。

 犯罪者の命を守った結果、より多くの命が失われるだとか、大きな損害を出すとか、そういった事は関係無いのだ。人権屋の彼らにしてみれば、「人命を尊重しない」と言えるのであればそれで構わないのであり、内容は二の次だ。


 声を上げ、人権活動している事をアピールし、自己満足を得るか、金が入ればそれでいいのだ。

 その結果、他人の人権を侵害しようが、人権屋は何も気にしないのである。わざわざ関わるだけ馬鹿らしい。

 だからこそ、今はマスコミと近い冒険者ギルドに近寄らない選択肢を選んでおきたい。



「取材お断りで話は通るかな?」

「自衛隊ですからね。大丈夫でしょう」


 自衛隊も広報部などがあるが、冒険者ギルドと違い今回の件に関わってはいないだろう。

 俺は自衛隊にコネのある四宮教授からの吉報を待つのであった。

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