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次の目的地②

「自衛隊を頼るのはどうですか?」


 次のダンジョンをどこにするか決めあぐねていると、及川教授からそんなアドバイスを貰った。


「いやらしい話かもしれませんが、国内では冒険者ギルドと並ぶ規模の、唯一の組織ですからね。その力を借りられれば、問題の大半は解決しますよ。

 自衛隊にしてみれば、一文字さんと繋がりを強化して、いざという時に共同戦線をする、良い予行演習になりますから、あちらにも利が有ります。

 いくつか隠していた情報を抜き取られるでしょうが、それは今更。こちらの情報を、こちらから与える事で、彼らの情報の誘導もできます。相手もプロですからこちらの意図を読んではくるでしょうが、そこも前提にしてしまえば、変な事にならないでしょう。私達に何か問題があるなら、もう仕掛けてきているでしょうからね。

 こちらを危険視させないためにも、歩み寄る姿勢を見せる事が、時には必要かと考えます」


 及川教授は、俺が自衛隊を頼るメリットを提示する。

 おおむね、言っている事には同意できるので、俺の意見もじゃあそうしようかという考えに傾く。


 が、デメリットもある。


「自衛隊という組織から見れば、私たちは取引相手であり、そこまでおかしな真似をされる事もないでしょう。何かしらの理由がるならともかく、無意味に敵対しようとするほど、自衛隊は愚かではありません。

 ですが、大きな組織にはどうしても腐ったミカンが混ざるのですよね。

 そんなどうしようもない連中に目を付けられる可能性は否定できません」


 相手が組織として信用できても、そこに所属する個人まで把握しているわけではない。

 中には「組織のため」と言いつつ、自己利益の確保に走り、組織に損害を与える賢いつもりのバカもいる。

 組織が大きくなれば確率的にそういった手合いが混ざりやすくなり、俺のように目立つ奴は、他の人より高めの確率でそんなバカどもに遭遇する羽目になるのだ。

 こればかりはどうしようもない。



「そういった者が軽い気持ちで、小遣い稼ぎ程度の感覚で、共同探索などで得た私たちの情報を外に流すことも考えられるのですよね。

 そして、大きな組織からそういった人がいなくなることはありませんし、それを防ぐ手段も少ない。私たちが、大きく評価されていないうちは」


 なお、これは組織の努力である程度防げる。

 信用できない人間と信用できる人間を選り分け、信用できる人間を上に、できない人間は下のままにしておくことで、ある程度の腐敗を防ぐことができる。

 馬鹿が内部に入り込む事は仕方がないとしても、要職に就けなければ、組織の質が下がる事はあまり無い。


 もっとも、“上”に行ったら行ったで、権力欲に取りつかれるなど、それはそれで腐っていくこともあるのだが。自浄作用が働いてくれるかどうかはその時の“下”の人間にかかっていて、

 そういうことを言い出したらキリがないので、どこかで妥協と断罪のバランスをとりつつ、上手くやっていくしかない。

 無茶ぶりもいい所だとは思うけどね。



 それは横に置き、組織の中でも信用のできる人間を貸してもらえるかどうかは、こちらの「価値」によって決まる。

 ストレートに言ってしまえば、大したことがない客には大したことのない人間があてがわれ、重要な人間には信用のおけるスタッフが派遣される。


 俺たちは自衛隊と付き合いがあるけれど、まだほんの数年で、長く太いパイプがあるとは言い難い。

 あまり軽んじられる事は無いだろうが、それでも賓客、重要な取引相手と言ってもらえるかどうかは微妙である。


 と言うのも、俺たちは自衛隊に対し結構隠し事をしていて、そこまで相手を信用していないと言うか、深く付き合いを持っているわけではないからだ。

 こちらが胸襟を開かない以上、相手だって一歩踏み込んだ仲になりたいとは思わないだろう。


 もちろん、誰に対してもオープンな態度をとるというのも軽い態度と見られる信用されない行動なんだけど、こっちは秘密主義が過ぎるというかね、身内でまとまっていると言うか。排他的な組織と思われかねない部分がある。

 ロボット製作関連として電子部品関係や装甲素材関係で他企業と付き合いはあるけど、自衛隊に信用してもらえるかというと、難しい。


 特に、メーカーとして客相手でも強気の姿勢を崩さず、特急対応や細かい仕様の要望などに応えたりしていないというのも、一般企業のようなユーザーファーストではないと、評判が悪い。

 特急対応、特殊対応は不具合発生の原因だから、そんな事はしないと断固とした態度で明言しているのだ。

 おかげさまで、それでも性能とお値段の釣り合いを優先してくれるお客さんしか残っていないからね、ウチは。自衛隊とか、冒険者ギルドとかね。



「ですから、仲良くなるためにも、自衛隊の手を借りましょう。そういうわけですよ」


 何かをお願いするため、頭を下げる。

 それもまた、友情の形だ。


 「友情とは見返りを求めない」と言うし、「友人とは、互いに迷惑をかけあい、それを受け入れる関係である」とも言う。

 お互いに迷惑をかける関係でなければ、真に友情とは言えない。


 相手に、かけられた迷惑以上の何かがあるからこそ、この関係は成立する。

 もしくは、自分が相手にかけた迷惑への対価がどれだけ大きかろうと、ちゃんと支払ってもいいと思える何かがあるか、だ。


 ちなみに「困っているときに手を差し伸べるのが友情」というのは、かなり飛躍した言葉だと思う。人間、出来る事と出来ない事があって、出来もしない救いの手を差し伸べる行為に意味は無いからだ。

 それに、これを言い出す人間は、そのほとんどが自分がそれを実践していない。相手に求めるばかりで、自分は貰うだけの我利我利(ガリガリ)亡者の考えである。

 これを言っていい人間は、助けを求める側ではなく、救うために手を伸ばした人間だ。救いを求める側が言っていい言葉ではない。





 及川教授の言葉を反芻する。


 冒険者ギルドとは少し距離を置きたいので、自衛隊に歩み寄るのは、悪い選択肢ではない。

 いざという時に備え、仲間を増やすために動くというのは、アリだと思う。


 俺はちらりと地方紙に目をやり、苦い顔をする。

 そこには少し前に、滋賀の冒険者ギルドでちょっとした事件が起きた記事が載っている。


 ギルドが冒険者に貸し出しているロボットをめぐり、トラブルがあったという記事だった。

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