俺と仲間と始まりの計画①
四宮教授への話が終わったら、及川准教授にも話を振る。
「はぁ。まぁ、そうなんですよねぇ。
一度は一文字さんと距離を置く事で同意してたはずなのに、その事を忘れている方が多いんですよ。悲しいですが、これも人間なんですよねぇ。
彼らも、己の利益のために協力している訳ですから、責めるつもりはありませんが」
及川准教授は、四宮教授と違って大学に通っている。
そのため、以前の決定を責められたりする頻度が段違いに多い。
そういった事情が手伝って、四宮教授と違い、俺の提案には現段階でも賛成してくれた。
「私は原神開発チームの中でも一番の下っ端ですからね。私が居なくなっても、替わりは居るでしょうから。四宮さんと違い、動きやすいんですよ」
自嘲する及川准教授だが、俺にしてみればありがたい事ではある。
とりあえずだが、仲間を一人、入手できた。
「それで、ですね。仲間になるのは構いませんが、一文字さんは、私にどんな話を振ってくれるというのでしょうか?」
もっとも、本当に及川准教授が仲間になるとしたら、開発目標と開発計画を用意しなくてはいけないようだが。
「こっちに仕事がある」という話を、具体的に説明しなくてはいけなくなったのである。
さすがに、ノープランで二人を誘ったわけではない。
一応ではあったが、俺は俺なりにやってみたい事を抱えている。
「そんな訳で、パワードスーツの開発を行いたいと思います」
「……まだ諦めていなかったんですね」
「面白そう、ではあるね。だけど実現可能かどうかと聞かれると、まず難しすぎて駄目だと思うよ!」
それは、パワードスーツの開発だ。
俺は自分専用のパワードスーツを作るつもりでいる。
「ここに来る前、冒険者を辞める事になった最後の戦闘なんですけどね。俺は、ファイアウルフの特殊固体と戦ったんですよ」
ダンジョン前。
わざわざここまで来てくれた及川准教授と滞在中の四宮教授、そこにプラス1名を招き、今後の話をする。
いや、今後というか、何でパワードスーツなどと言いだしたかという経緯だ。
「火を操るタイプのモンスターだったんですけど、その使い方が厄介だったんですよね。周囲の酸素を燃やされ、俺は息苦しい中で戦う事になりました。
……周囲の連中は被害を受けなかったようなので、そこまで範囲の広い攻撃ではなかったと思うんですが。それで、俺は大いに苦戦したわけです」
思い出すのは、最後の冒険。
そこでギリギリの戦いを強いられた記憶。
勝てたのはこれまでの積み重ねがあったというのも間違いないが、運が良かったからだ。
あの時の俺はかなりギリギリだったのである。
「そこで、そういった事態に陥らないで済むような、パワードスーツを提案してみる訳です」
「『羹に懲りてあえ物を吹く』という言葉を知っているかね?」
「用途が限定過ぎないかな?」
「大きめのパワードスーツであれば、拡張性も十分ありますし、色々とできる事も増えると思うんですよね」
「そもそも原神は人間と装備を共有できるのだよ!」
「原神は、拡張性が足りませんか? 特殊環境対応オプションはたくさんあるのですけれど」
原神には水中行動用の装備や、特殊移動補助としてワイヤー射出機などの装備が存在する。
ここでは使っていないのは、使う意味が無いからである。
常用するようなものであれば、装備などと言わず標準搭載しておくものだからな。
それは置いておいて、パワードスーツは俺が苦戦するようなモンスターと戦うために開発する予定のものだ。
完全に趣味が入っているが、実用性だけで物事を考えるよりは良いと思う。
そこにどれだけの金をつぎ込むのだと言われると、もっと採算を考えないといけないのは分かるので、ある程度予算の枠を組んで、予定外の出費が発生しないように努めないと駄目なわけだが。
「ところで、だね」
四宮教授は、俺の話に区切りがついたところで手を上げ質問をする。
「そちらの御仁は、どなたかな? 今ここに居るという事は、一文字君の協力者だと思うのだけれど」
四宮教授が聞きたかったのは、ここまでずっと黙っていた最後の参加者の事である。
俺が話を始める前にすでに顔を合わせていたようなのでてっきり自己紹介は終わっていると思ったんだけど、そうでもなかったようだ。
「こちらは、某大手自動車メーカーの下請けだったけど、色々あって潰れる寸前だった工場の元オーナー、『鴻上 郁男』さんです。
俺が工場を買い取ったので、今は工場長ですね」
「鴻上です」
「あ、ああ。四宮だ。よろしく頼むよ」
「及川です」
簡単かつデリカシーに欠ける紹介をして、あとは本人らの交流に任せることにした。
これからこの4人を中心に頑張るので、仲良くして欲しいね。