耐久試験
炸薬ゼロというのは、現実的じゃないと思った。
とはいえ、炸薬はすでにかなり減らしているので、これ以上炸薬を減らした場合、不覚を取るかもしれないと考えていた。
この高威力の根幹は、『攻撃反射の万華鋼』が強く関わっているので、アプローチを変えてみる事にした。
晴海のバッテリーに使う魔石を、メジェドの神官オンリーから、ゴーレムの魔石交じりのものに変えたのだ。
かなり昔、万華鋼ができたあたりで試した事だが、バッテリーの魔石はある程度混ぜ物があっても使うことができる。
そこで俺は、晴海のバッテリーに添加物を加えて威力を調整したというわけだ。
それと槍が固定具を壊して飛んで行ってしまうのは、固定具の強度と比較し威力が強すぎることに加え、相手が「柔らかい」のも理由だと考えた俺は、漆式を「硬い相手」に使わせてみたのである。
その場合、槍が飛んでいかないだけで固定具には多大な負荷がかかり、やっぱり壊れるだろうとは思ったけど。これは運良くなのか、それとも別の要因からか、漆式は壊れること無く初めて戦闘を終えることができた。
「とはいえ、『壊れなかっただけ』だな、これは」
判断としては間違っていなかったと思う。
威力を落とすために混ぜ物をして、硬い敵と戦う時にだけ使う。
そうすることで、“一度ぐらいなら”壊れることなく戦闘を終えられる。
しかし、それでも槍の固定具は壊れかけの状態だ。
過負荷のかかった固定具の関節部分にガタがきて、遊びができてしまった。さすがに槍がぐらつくという事は無いけど、もうあと一回使えば致命傷レベルのダメージになり、三回目の使用には耐えられるかどうか、といった所だろう。
つまり、これだけやっても二回までしか使えないわけだ。
可能であれば、固定具の部分だけリビングメイルの万華鋼を使い、自己再生能力を持たせておきたい。
時間経過で再生してくれるなら、一回の戦闘で二回までしか使えないとしても、今回のように何日も使うダンジョン攻略の間なら複数回使えるので、有用性がかなり増す。
複数の万華鋼を組み合わせて作る装備は光織の使う、巨大化して炎を纏う斧ぐらいだ。
これを漆式に応用するのは……あれ? 可能じゃないか?
やってみないことには断言できないけど、多少の改修は可能なんだし、これは一度、及川教授に相談してみるか。
言葉にはしていなくとも、及川教授も同じようなことを考えているかもしれないからな。
俺は複数の万華鋼を使った改修プランを書面に落とし込み、帰った後に提出することにした。
その後、種子を稼いだ後は二回目を使ったらどうなるのかを早めに試しておこうという事で、晴海は嫌がったが壊れる事を前提に、一回目から補修なしの状態で漆式を使用させてみた。
二度目のティターン戦中には壊れなかったものの、補修なしの状態で使ったために、今度は固定具だけでなく、砲身部分にもダメージが入ってしまった。
三回目の使用までは可能だろうけど……三回目を撃った後は、致命的なレベルで壊れるだろうなぁ。さすがにそこまでは試したくないね。
砲身の修理部品は持ち込んでいなかったため、今回の攻略はこれで終わり。
もともとそのつもりだったので物理的にも計画的にも問題は無いんだけど、漆式が壊れかけてしまったため晴海の機嫌がかなり悪くなり、精神的には大問題だ。
ギリギリを経験するのが必要な事というのは理解できても、感情的に納得できなければこういう事もある。
ご機嫌伺のため、今後はあんまり無理をさせないように三人娘と約束する羽目になったよ。
……そうだよ。光織や六花も今回の件には思うところがあったみたいで、あまり無理をさせない方法で、壊れそうな装備を無理やり使うのは控えないと駄目になった。
仲間との信頼関係を優先したというか、単に尻に敷かれていると言うべきか。
まぁ、俺たちに限った話ではなく、破壊試験とかって嫌がる人も多いと言うし。
作り手・担い手としては、耐久性を見るためとはいえ、自分が作った物や自分の大切な相棒が壊されるのを見るのって、どう考えてもいい気分にはなれない。
これぐらいは受け入れないと駄目だよな。じゃないと、人の心をなくした人非人になってしまうよ。




