漆式の修理
せっかくの漆式が一回で壊れてしまった。
現在は“漆式が無くても倒せる”ウッドフェンリルと一戦交えただけ。
移動にかかるコストなどを考えると、「ここで帰れば赤字だ」とまでは言わないが、それでも時間当たりの収入が大きく減ることは避けられない。
「じゃ、帰るか」
でも、ここで帰らないという選択肢は取れない。
もともと、漆式の検証のために戦っている面が強いのだし、漆式が壊れたままでは検証も何もあったものではない。
お金稼ぎ、種子の回収も大事だが、検証だって大切なのだ。
ここは無理せず撤退し、漆式を修理して、また壊れないように対策を施し、それからもう一度挑むのが良いだろう。
こんなところで無理をする理由はなかった。
「出力がダンジョン内と地上では違うのか。それとも別の要因があったのか。
これだけでは原因は分かりかねます」
帰って及川教授に漆式を見てもらったところ、原因不明と言われてしまった。
仮で復旧した槍のホルダーの引っ張り強度は計算通りで、想定された出力で使用した場合、壊れるはずがないというのが及川教授の分析だ。
「魔石の使用量も規定通りだね。ダンジョン内では一回しか使っていないのだろう? ならば想定外の“何か”が有ったと見ていいよ」
「“何か”ですか」
「そうだね。何かしらの外的要因が有ったはずなのだよ」
四宮教授が及川教授の意見を補足する。
これが晴海のミスで魔石の大量使用という原因であれば話は早いんだけど、これはそういった単純なものでもない。
俺たちに解らない“何か”が起きたのだ。
「ウッドフェンリルの防御力と、槍が貫通して飛んでいった距離などから計算すると、想定の8倍は威力があったようだね」
四宮教授はついでに、あの場での漆式パイルバンカーの出力を計算していた。
以前からステータスの数値化を目指し、データ収集をしていたからこそ、こういった状況も解析できる。
その結果、規定値の8倍というとんでもない数字が確認された。
「ここまで差が出るのは不思議だよね。
よし、壊れるかもしれないけれど、もう一度、ダンジョンでの検証が必要なのだよ。いつもの、ゴブリンダンジョンで行おうじゃないか。
なぁに、大丈夫さ。こちらでなら、修理もすぐにできるからね!」
その原因を探るため、俺たちは完全に直し終わったわけでもない漆式を持って、ダンジョンに向かうのだった。
「何も起きないね」
「想定内ですね」
「威力を半減させても、ゴブリン相手じゃオーバーキル過ぎですね。1割でやってみましょうか?」
「それでは検証にならないのだよ」
そんなわけでゴブリンで漆式の検証をしてみるが、何も問題は起きない。
ゴブリンは普通に脆いので、最初からパイルバンカーなど必要ないのだ。
漆式を使ってもゴブリンが死ぬのが僅かに早くなるだけで、なんの意味もなかった。
最大出力でも撃ってみたが、漆式パイルバンカーにダメージは無さそうだ。
なぜ、ウッドフェンリル戦で壊れたのか。
理由がまるでわからない。
そうやって検証を続けていると、四宮教授が何か思い付いたと声を上げた。
「分かりました! 反動ですよ!
ウッドフェンリルに攻撃を当てたことで発生した反動を反射して、更に威力を高めていたんです!!」
ダンジョン内という事を忘れ、四宮教授みたいに大声をあげた及川教授。故障の手がかりを見つけたと叫んでいた。
あのとき、何があったのか。
その説明を聞くため、俺たちは及川教授の講義を受ける事にするのだった。




