未知の能力②
相変わらずの、ティターン三体が現れた。
手にする武器も、槍のままである。
「今回は突撃も何も無しか」
初回は、槍を投げてきた。
二回目は、風を推進力に突進してきた。
三度目となる今回は、三体が隊列を組んだまま前進してくる。
アテが外れたというか、なんというか。
これまでとは違うスローな立ち上がりで戦いが始まるというのは、どこか不気味ですらある。
「オケアノスは中央を。光織が左を、六花、晴海は右を。タイタンは左右へ均等に。俺はその場の判断で、全体をフォローする」
「ケツイが、みなぎった」
「ティターン、人生最高の10分にしよう」
「すぐに終わらせてやるのですよ! さっさとやられてください!」
「ヒアウィーゴー!」
とは言え、何もしないわけにはいかない。
敵の能力が違うのなら戦術もそれぞれ変わるのだろうと、目の前の状況に対処するだけだ。
できればバラけて欲しいが贅沢は言ってられない。
どの敵が万華鋼装備持ちかは判らないが、前回と同じフォーメーションで戦力を分配する。敵はたった三体なので、数の利を活かす様に囲んでしまうだけ。通称“正義の味方フォーメーション”である。
……たまに思うんだが、正義の味方が、強大な敵とはいえ、多数で囲んでラスボスをボコボコにするのって、集団リンチだよな?
正義とはいったい……?
敵よりも戦力を揃え、数が多ければ囲んで多方面から攻撃を仕掛けるのは、戦争の定石である。
「正々堂々」や「武士道」「騎士道」といった誇りなんて、犬にでも食わせてしまえばいい。
さすがに人間相手であれば「勝利こそすべてなのだぁーーっ!」とまでは割り切れないが、ダンジョンのモンスター相手に卑怯も何もないと思っている。
数を武器に戦うことが悪い事とは考えていない。
全員で囲んでからは近距離、中距離と、武器の射程の差を利用しつつ、連携しながら戦うのだが。
「……?」
光織たちが、急にティターンたちから距離をとる。
なぜ、と思うが、何かをされた様子はなかった。
光織たちが再び攻撃を仕掛けようとするが、連携にいつものキレがなく、普段であれば流れるように絶え間なく攻撃を仕掛けるところが、ぎこちない、まるで初めて組んだ人と一緒に戦うかのような、拙いものになっている。
これまで戦ってきた経験がリセットされたような、レベルアップで上昇した能力だけの状態であった。
そうなると、数で勝ろうとあまり意味がない。連携するからこそ、数の優位が意味を持つのだ。
単体の戦力を比較した場合、ティターンとこちらのメンバーでは、ティターンの方が、個として強い。
波状攻撃とは呼べない、戦力の逐次投入にも似た戦いぶりでは、光織たちが各個撃破されそうになる。
「≪泥沼≫! 連携できてないぞ! 立て直せ!」
俺は慌てて魔法を飛ばし、フォローする。
ティターンを泥沼に落とし、わずかばかりの時を稼ぐ。
何度か使えば対応されるので、いつまでも有効な魔法じゃないけど、今はまだ有効なので、良しとする。
仲間の不調という状況がどうしてか分からず、俺も混乱しているが、こんな時はやるべきことをシンプルに考える。
光織たちがやられないようにするのが最優先。多少の被害は受け入れても、とにかく致命的な攻撃だけは、絶対に防ぐ。
それが俺の役割だ。
オケアノスは中央のティターンと互角の勝負と頑張ってくれているので、俺は他2チームの支援だけでいい。
それでも一人ではどうしても手が足りず、両翼の戦いは押し込まれないようにするのが精一杯。
このままだと、拙いのはハッキリしている。どこかで状況を好転させなければいけない。
あまりやりたくはなかったけど、こちらも切り札を切らねばならないようだ。
俺はオケアノスのバッテリーには予備があるのだからと、指示を出す。
「オケアノス! 『巨大化』してくれ!」
オケアノスに短期決戦モード『巨大化』を使うようにと、声を張り上げた。




