未知の能力①
光織たち、ロボの整備はもう二日ほどかかるという話だった。
「陸式改が壊れた原因の対策案が出たので、そちらが終わってからの出撃をお願いします」
陸式パイルバンカー改のバージョンアップのため、ダンジョン攻略を遅らせて欲しいと、通達があった。
及川教授にそう言われれば、こちらとしては飲み込むしかない。
そういった話は及川教授に任せているので、任せた以上は信認するしかない。
実際、装備の質が向上するのは嬉しいし、これでパイルバンカーの連続使用ができるようであれば、その方が絶対に良い。
それを扱う六花の成長に賭けても良いんだけど、他にできる事があれば、やれるだけやっておくべきだと思うよ。
それにしても、二日か。早いな。
で、二日後。
「リテイク」
「申し訳ありません」
「早いのは助かりますが、それ以上に、 “質”を重視してください」
「返す言葉もありません」
不機嫌な六花に駄目出しをされたため、陸式改の改善はやり直しとなった。
何があったのかというと、改善されたはずの陸式改は、ちゃんとした組み立てをされておらず、このままでは組み立て精度不足で、前よりも簡単に壊れるというのだ。
先日の喧嘩騒動の関係で急に人が減った事と、改善が急に入った仕事だったため、作業のチェックが甘くなってしまったのが原因だという。
「再発防止だけど、不具合発生の真因が無理な工程だから、今後は無理な工程を組まないように、こちらへの納期を遅らせて構わないから、とにかく作業精度を優先して仕事をして欲しい。
俺たちへ意見をするのが難しいのは分かるけど、一つでもミスが有ったら、命を失う事になりかねないんだ。本当に、慎重に頼む」
なお、短納期だった理由の一つが「偉い人が納品相手だから」だったりする。
言ってしまえば、機嫌を損ねたらクビにされかねないとか、そうまで行かずとも減給になるとか、閑職に回されるとか。そういった懲罰人事が行われるかもしれないという不安から、無理をしてでも早く仕事を終わらせたかった。
「なる早で」と要求されれば、無理な工程も組んでしまう程度に、例の喧嘩に対する処罰もあって、俺は怖がられていたのだ。
処罰の内容を決めたのが、鴻上社長であっても。
立場が上の人間としては、下の人間に舐められてはいけない。
それと同時に、話の通じない暴君と思われてもいけない。
話が通じて道理を弁えている、そんな上司だと認識してもらわないと拙い。
規範をあまりにも逸脱すると、どうしても甘く見られるし、人の意見を聞き過ぎれば、主体性が無いと舐められる。
だからと言って、会社の規範に則った行動をとっていても、厳しすぎると言われる事がある。これはしょうがない。感情面の問題だからだ。
自分の中できちんとした線引きをして、それが揺るがないように振る舞うしかないんだけど、理屈は分かっていても、実践が難しいんだよな……。
こういうのはどうしても経験不足で粗が目立つし、ダンジョンでモンスターと戦っている方が楽だと思うよ。あっちの方が覚悟を決めやすい。
ん? あれ? それってつまり、俺が社会不適合者って事か?
いや、さすがにそこまで酷くはない、はずだけどな。
ないよな?
今度はちゃんと改善が行われ、三度目のティターン・チャレンジをする事になった。
前哨戦のウッドフェンリルの相手にもずいぶん慣れてきたため、既に戦いの中で不安を感じない。
「グレート動〇剣! 真っ向唐竹割り!!」
「斧で?」
「それは言わないお約束なの」
まぁ、ここで苦戦するなら、ティターンには挑めない。
それに数を熟せば、学習能力の高いロボットたちが勝てない道理はないのだ。
勝てないとしたら、そもそも地力が足りないか、余計な事をしているかのどちらかぐらい。
今回も遊びは、発言以外は、無かったので楽勝である。
二度のウッドフェンリル戦を終え、準備が整えば、本番となる。
今回は、種子を2個。
報酬が魔石だけ、という事は無いと信じたい。
もちろん、その分だけ敵も強化されている事だろう。
「エメラルドウルフは無いとして。ファイアウルフ、メジェド、リビングメイル、ゴーレム。どれが来るか。それとも、俺たちが作っていない物が出てくるのか」
気になる事としては、敵の能力。
前回出てきたティターンは、エメラルドウルフの万華鋼を使っていた。
前々回がゴーレムのものだったのを考えると、今回も違うものが出てくるのではないかと思っている。
で、俺たちがこれまで作った万華鋼は5種類で、最初の一戦が種子6個で、1種類足りない。
どこかで、何か別物が出てくる。
そう考えると、油断はできなかった。




