社内のゴタゴタ
飲み会では開発チームと一緒になって、店の迷惑にならない程度に大いに騒ぎ、無駄に語り合った。
新装備の開発関係、新しいネタから始まり、某宇宙世紀のロボットの最強は何かを語り合い、そのロボと別のアニメのロボと戦わせたらどうなるかを検討してみたりと、そりゃあ「その飲み会、仕事に関係ないよね」と言われても仕方のない時間を大いに楽しんだ。
一部の人間が参加した「女体化ロボットとその可能性について」という話し合いから逃げ出したけどね。光織とかがいる身としては、ちょい生々しい話になりそうだったという事もあるけど、それとは別件でね。
さすがに、女性陣の冷たい視線を受け止める勇気は持てなかったよ。
俺には縁のない話なんだけど、開発チームの中には男女の仲になる手前の組み合わせも存在する。
そんなお相手のいる男を下ネタ交じりの馬鹿話に巻き込めば、それだけで評価を減点されてしまうのだ。下ネタ話は女の居ない席でやれと、そういう事なんだ。
なので、空気の読める俺はその男を巻き込む形で避難して、その飲み会は二次会にもつれ込む事も無く、その場で解散、終了した。
酒の席は無礼講、などと言ったところで、実際は無礼講でもなんでもないというのが現実だと、普通に思い知らされるね。馬鹿をやると、その後の肩身が狭い。
その後は大手のスパに行ったりして英気を養い、休暇を堪能した。
そんなこんなで休暇が終わると、リフレッシュした俺とは対照的に、職場はどこかギスギスした空気が漂っていた。
「何かあったの?」
「作業者同士の喧嘩ですよ……」
近くの職員が教えてくれたが、開発チームではなく製造チームの方で昨日、個人間のトラブルがあった模様。
生産ラインにたちまち影響が出るという訳ではないが、周囲の雰囲気は最悪である。
人間が大勢いれば、こういう些細なトラブルは絶対に無くならない。
絶大的なカリスマの下に集った信者だろうと、信者間トラブルが無くなるという訳ではないのだ。
さすがに大人であり、社員という名の雇われ人材なので、お給料のために多少は我慢するんだけどね。それでも、我慢の限界を越えれば喧嘩もするよ。
「今回は殴り合いになりそうになったんですよ。まぁ、周囲の人が止めたから、大事には至りませんでしたけど」
「それはそれは。止めてくれた人には感謝ですね」
喧嘩は両成敗とはいえ、さすがに原因になった方は強めの処分を下さねばならない。内容によってはクビもあり得る。
これについては、社長の鴻上さんと相談だな。
ちゃんと話し合おう。
こうして俺は、休暇明けの仕事始めから余計な仕事で無駄に疲れる羽目になったのだった。
「まー、人間関係のもつれなんて、防ごうと思っても中々防げませんからね。努力を放棄するつもりはありませんが、完全は求められません」
話を聞いてみたが、元々相性や関係が悪く、普段は離れて仕事をさせていたのだが、先日はそうもいかなかった模様。で、口の悪い方が先に罵声を浴びせた事でもう片方が激昂。言われた方が殴りかかろうとしたわけだ。
個人的には、先に喧嘩を売った方の罰を重くしたい。ただ、法的には殴ろうとした方の罪がより重くなる。
鴻上さんも似たような判断で、即物的な罰としては殴ろうとした方がより重くなるけど、昇給やら何やらといった面で喧嘩を売った方の評価もしっかり下げて、バランスを取ることにしたようだ。
どちらも、クビにはしない。
職人としての腕を捨てがたいとかそういった話ではなく、社員を簡単にクビにできないというのもある。
殴り合いになりそうにはなったが、致命的な段階までやらせなかったので、 “今回は”見逃された形である。当たり前だが、二度目は無い。
厳重注意の上、減給と双方謹慎。一時的な出社停止命令。
これを厳しいと見るか、軽いと見るかは人による。社内でも、意見が分かれているそうだ。
「人手不足、後継者不在という訳ではありませんが。問題を起こした人間だからと即座に放り出すのも外聞が悪いのです。
それこそ、トカゲの尻尾切り、隠ぺい体質だと叩かれます」
こういった判断は、誰がどのようにしても批判が半分なのだと鴻上さんは言う。
それでも、なぁなぁにならないよう、キッチリと決断するのが上の仕事で、鴻上さんはちゃんとその仕事を全うした。
偉い人を見た奴が、その収入だけを見て羨ましいという事が有るが、こうやって苦労しているのを見ると、偉くなるのも考え物だと思うよ。
少し前から、偉くなって金を貰うより自由が欲しいと、昇進しない人が増えている。
俺もどちらかと言えば、そのクチなんだろうな。




