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事後処理(しない)

 ボス戦を終えた俺たちは、ダンジョンを出て、ギルドで売る物を売り払い、工場に戻った。


 今回の稼ぎは、トータルで見ると、ほんの少しだけ黒字。

 道中で倒したエメラルドウルフなどのドロップがそこそこの量だったので、修理費用ぐらいは捻出できるぐらいの収入があったのだ。


 魔石類を売らない事でドロップ品の売却益は小さいものの、魔石そのものは有効活用するし、その分の経費削減を考えると、それはもう現金収入とそこまで変わらない。

 普通の冒険者であれば、魔石をそのまま売却する分、どうしても収入は抑えられる。ギルドの買取価格は最終ユーザーが支払う金額そのままではなく、中間手数料が有るので低くなるのが当たり前だ。

 こういう時、農業・畜産業を除き、生産者兼消費者は強いのである。



 なお、一般的な農家などの場合は生産物で抑えられる食費など微々たるもので、農業会社で大規模化しようと、今度は生産物を社員全体に回す手間でメリットが相殺されるというオマケが付く。

 大手スーパーやファミレスチェーンなどの契約農家の場合、消費者側(スーパーとか)の経費削減のあおりを農家が受ける結果になるなど、あまり健全ではないパターンもあったりするから、それもまぁ良し悪しである。

 生産と消費のサイクルを一元化して利益を大きくするのは、そう簡単でも無かったりする。


 正直、大半の事業は統合したところで「自分の部署の利益を最大化したい!」という欲求により、取引相手の他社だったときの方がマシという結果になったりするわけだが。

 だから「この会社とこの会社が一本化したらもっと上手くいくのにね」と誰でも思い付く組み合わせがあったとしても、その二社が合併するとか、あり得ないのである。

 個人の利益、部署の利益、会社の利益のどれを優先するかって話なんだけど。自分の利益を部署の利益、会社の利益と勘違いする俗物はどんな大手企業にだって居るので、人間が感情の生き物である以上はどうしようもなかったりする。





「ただいま戻りました」

「おかえり!」

「お疲れ様です。ご無事で何より」


 会社に戻ると、報告書を書かないといけない。

 ダンジョンアタックの収入、ダンジョン内での被害状況、行ったティターン・チャレンジの結果。

 そういった諸々を報告しないと、他の人が動けなくなる。


「光織。よろしく」

「ウィ、ムッシュ」


 まぁ、実際に一次報告書を書くのは俺ではなく、光織のお仕事なんだけど。

 書類は全部光織に任せ、冒険中のデータを会社PCのストレージに移動してもらい、あとはそれを見てタイタンのメンテや壊れたままの陸式パイルバンカー改の修理をやってもらう。


 俺は無事だったという顔見せのため、出社したにすぎない。

 あ。戦利品の受け渡しぐらいはするか。早めの処理をした方が効率が良いので。

 だけどそれ以外の業務はしないかな。



 長期のダンジョン攻略後は疲れているので、こういった手抜きが認められている。

 二次報告書を書かないといけないが、緊急性のある話以外は三日間の休暇後でいい。


「明日ぐらいに、どこかで打ち上げでもやりませんか?」

「いいですねー。飲みましょうよ!」

「桔梗屋行きましょ! 蕎麦屋ですけど、酒もイケてる!!」


 そういった仕事の話は横に置き、開発チームのメンバーが休みの中で飲み会に行こうと誘ってくれたので、これを了承。

 これは俺に集ろうという訳ではなく、どちらかと言うと、俺のダンジョンアタックの話を、報告書ではない生の声で聞きたいという“お願い”だったりする。



 仕事の報告書ではなく、冒険者のちょっとした自慢話や苦労話の方が聞きたいというのは、よく頼まれる。

 開発チームは自己満足だけでロボット開発に携わっているのではなく、冒険者が実際に感じている事を中心に据え、問題を技術でどうにかするのが彼らの仕事だからだ。

 飲み会でそういった話を聞くのは、酒が入ったテンションで話をするのがちょうどいい塩梅になるからである。想像しやすい客観性よりも、もっと主観的な意見が欲しい場合も多いので。


 そういう意味では、この飲み会は仕事の延長なんだけど、お酒の席が仕事というのは、昨今では認められないのもまた事実。

 接待費用とか言おうと、身内だけの飲み会を経費で落とすのは大変なのだ。

 自分のお小遣いの中から飲み代を出すのはそれなりに痛い出費でも、彼らは気にせず、必要だからとお金を出す。



 それは。


「今日は寒いからこっちの熱燗にしようかな」

「俺はとりあえず生!」

細雪(ささめゆき)! 冷で!」

「そば湯ください」


 やっぱり楽しいから、というのもあるからだ。

 飲んで、騒いで、盛り上がれるなら、これは惜しむべき出費じゃない。


 人間、効率を突き詰めるのも楽しいが、回り道も時には必要だと思うんだよ。

 それが最短コースになる場合もあるわけだし、心から笑えるような、そんなやり方の方がずっといい。

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