ティターン②
懸念は多数あるけど、細かい事はティターンの性能を見てから考えることにした。
能力が高ければちょっと気分が良くなるだろうし、低ければ懸念のレベルが少し下がるんじゃないかなと、楽観的過ぎる考えを持っている。
これが現実逃避という事は分かっているんだけど、人間、いつだって現実を直視できるわけじゃないんだ……。
「バッテリーのベースはゴーレムの魔石で。ティターン、起動します」
バッテリーに魔石さえ補充すれば動き出すだろうという安易な考えの元、ゴブリンダンジョンでティターンの起動試験を行った。
俺たちが起動させるのだから、テイムモンスターのごとく味方になってくれると思うものの、もしかしたら敵対するかもしれないという懸念があった。
ゴブリンダンジョンは洞窟タイプでタイタンサイズまでなら普通に戦えるけど、もしもティターンが巨大化してこちらを襲ってきた場合、背の高さでまともに戦えなくなる。
じゃあそもそもゴーレムの魔石を使わなかったら良いんじゃないかと言われそうだが、それはそれ。能力に見合った魔石を使う事で、初期の印象を良くしたいという狙いもある。
ゲーム的なメタ思考になるけど、忠誠度のようなパラメータがあった場合、仲間になるか敵対するかはこちらの行動次第というパターンもあり得る。同じ理由で、内部を見たい及川教授にティターンの解体許可を出さなかった。
「俺たちの態度が悪かったから敵対します」なんて言われた日には、後悔してもしきれないのだ。
なお、今回の起動試験には、危険を伴うと分っていても、両教授が付いてきた。
「これを見逃すなんてとんでもない」という判断らしい。
俺がバッテリーをセットし、しばらく見守っていると、ティターンの目に光が灯った。
起動成功である。
「『オケアノス』、俺たちの事が分かるか?」
今回、媚びを売るという訳じゃないけど、このティターンに名前を与えることにした。
ティターンの十二神、その長子である『オケアノス』と呼ぶことに決めた。
ティターンの子供だと、末子で王のクロノスが有名だが、アレは「親殺し」であると同時に「子供に殺される親」という嫌な逸話があるため、今回は回避した。
親の悪行に辟易としつつも、結局は親と同じ事をして、同じ運命をたどる神。この逸話を知っていると、あんまり使いたくない名前なんだよ。
オケアノスは俺の言葉に反応して、こちらを見た。
しばらく無言の時が過ぎる。
「ふむ? 喋る機能が無いのかね?」
「あの場にいた全員に、会話機能が備え付けられていますが」
沈黙が続く中、四宮教授と及川教授はなんでオケアノスが喋らないのかと首をかしげる。
状況的には喋る機能ぐらい有っておかしくないだろうという考えだ。
「もしかしたら戦闘用にチューンされて、喋らなくてもいいだろうってオミットされた可能性も有りますね」
「む。そう言えば、戦った時も喋ったりはしていなかったね」
「コミュニケーションをワイヤレスネットワークで済ませてしまうタイプ、という事でしょうか?」
これが喋らないのではなく、喋れないのだとすると、少し面倒臭い。
相手がこちらのいう事を理解できたとしても、こちらは相手の事を理解できないからだ。オケアノスの要求が分からず、戦闘での連携に問題が出るかもしれない。
あと、リアクションが無い相手に延々と話しかけるのは精神的にキツイ。
会話は双方向が基本なんだよ。
だんだんと、「喋れないんじゃないか?」という考えでオケアノスへの評価がまとまろうとしたが、それは杞憂だったようだ。
「イエス、ユアマジェスティ!」
「うおっ!?」
オケアノスは言語データをダウンロードでもし終えたのか、いきなり声を上げると、俺に敬礼をした。
しかも、どこかネタに走ったポーズである。
俺が近くにいた三人娘に視線を向けると、三人はそろって顔を逸らした。
どうやら、オケアノスがネタ台詞を口にした事件の犯人は光織たちらしい。
一応、その台詞から、オケアノスは俺に忠誠を誓う部下というポーズを取った事になる。
その忠誠心が本物かどうかは分からないが、一先ず、オケアノスは仲間認定して良さそうだ。
あとは性能評価のために指示を出した時の反応を見て考えればいいだろう。




