俺と原神と修行パート
小さな金属板をいくつも成型して、一個一個に穴を6つあける。
スケイルアーマーだとできた物を革鎧などに打ち付けるのだが、ラメラーアーマーの場合は穴に紐を通すだけ。
原神がダンジョンの掃除を終わらせても、俺の作業は終わらなかった。
仕方がないので、一人で残業だ。
翌日、なんとか一着完成した。
「15キロぐらいか? 着心地は……最悪だな。分かってたけど」
原神に着せる前に、自分で鎧を着てみる。
細かい事を考えず、金属板の厚みも「これぐらいでいいかな?」と適当に決めたため、なかなかに重い。
それに今回は胴回りだけと、ノースリーブにしたのに、肩周りが動かしにくい。
思ったよりも音が出ないのはいいんだけど、これを着てダンジョンに入るのは慣れるまで大変そうだ。
「ん? 興味があるのか?」
鎧を着て戦闘用の動作を確認していると、原神たちがこちらを見ていた。
俺の着ている鎧か、それとも俺の動きか。
瞳のないロボットたちであるが、その姿はどこか興味深いといった顔をしているように見えた。
「着てみるか?」
俺はラメラーアーマーを指さして聞いてみる。
すると、先頭にいた原神は首を横に振り、「違う」と動きで示す。
「あー。なら、俺の動きを覚えたいのか?」
ならば俺の戦闘動作を真似たいのかと聞いてみれば、今度は首を縦に振った。どうやらそれで良いらしい。
思い出してみると、原神は戦闘用のモーションを映像解析による学習だけでなく、自身の動きから発生する負荷を基準に、より良い動きを模索する学習プログラムを積んでいた。
学ぶ意思が人格形成に大きく関わっているのかもしれない。
「なら、今日は俺がゴブリンと戦おう。原神たちは、後ろでそれを見ているように」
今日は四宮教授が打ち合わせのため、いない。
俺は昼飯をクラウドファンディングの見返りで手に入れたカレーで済ませると、ラメラーアーマーを着て、原神たちを連れてダンジョンに入るのだった。
久しぶりに自分で戦う。
ただ、今回は高効率な省エネで戦うのではなく、見せるための戦いを意識する。
ゴブリンを発見すると、軽く魔力で強化した足で踏み込み、距離を詰めたら手にした剣で首を刎ねる。剣だけでなく、槍とハンマー、ついでに弓も使ってみせた。
どうせならば魔法も覚えさせるかと、視覚的に分かりやすい≪岩弾≫の魔法を使い、ゴブリンの頭を岩で潰す。
いざという時に格闘技の動きも知っていた方が良いかと、肘打ち、裏拳、正拳突きのコンボを決めてみる。ゴブリンは一発目の攻撃で死んでいるが、死体が消えるまでの短い間に全部叩き込んでみせるのが職人技だ。トロトロ動くと二発目の感触すら手に残らないからな。
「参考になったか?」
道の半ば、ゴブリンを60体ほど倒した時点で、俺はこっちに突っ込んでくるゴブリンを無視して原神の方に振り返り、後ろを見る事無く槍でゴブリンを殺していく。
ゴブリンを始め、モンスターは大なり小なり魔力を保有しているので、慣れてくると魔力で後ろにいるモンスターが分かるようになる。
原神たちは不思議そうにしているが、これぐらいは中堅以上の冒険者であれば誰でもできる基本スキルである。自慢するほどのものではない。
反応が鈍いため、もう一度原神たちに問いかければ、今度は3体とも慌てて首を縦に振り、肯定の意を示す。
「んじゃ、残りはお前らに任せていいな?」
こういった技は、覚えてみれば試してみたくもなる。
相手がゴブリンであれば事故の危険性もないし、まぁ、適当に上手くできずとも、やられたりはしないだろう。
俺は後ろに下がると、前に出た原神たちの戦いぶりを監督する。
「イメージと自分の能力と動きを一致させるんだ。俺の動きをコピーするんじゃなくて、自分の体の負担にならない所に落とし込んで、自分なりのやり方にしていくんだ。
相手の動き次第で、俺の再現を意識しないように切り替えるんだ。ゴブリンはまた時間が経てば補充できる。使いたいパターンがここで使えると思うな。次の機会を待っておけ。技を無理やり使おうとするな。
もし使いたい技があるなら、それができるように相手を誘導しろ。意識を向けさせる、逸らす、身体を弾く、引き込む、流し巻き込む。一撃で決めるのではなく技の流れを組み上げろ。自分だけじゃなくて仲間も使え」
原神たちは技の再現をする分には優秀だが、相手があっての戦闘であるという認識が弱かった。
俺のみせた動きを寸分違わず再現するようでは、実践向きとは言い難い。
俺の動きを自分なりにかみ砕いて理解し、敵の動きに合わせて使う技を選択する。そこまで出来なければ意味が無い。
人間なら体に型を覚えさせる訓練とかやらせるんだけど、そんな時間を取らせる必要が無いのはロボットならではのメリットだけど、応用ができるまで時間がかかるのがデメリットだな。
人間のファジーさは、ロボットが意識してどうにかなるものでもなさそうだ。
ロボットも多少の誤差を容認するとか、それぐらいはできるんだけどな。
それでも、敵の体格や戦闘の状況、味方の配置など、変化にはめっぽう弱い。
戦闘の経験値が足りなさすぎるのだ。
これはもう、時間が解決するしかない。
「でも、何とかなるだろうな」
幸い、原神はデータリンクされている。
経験は3体なので通常の3倍で積み重ねられる。
覚えはかなり良いのではないだろうか。
俺は地道に工夫を凝らしていく原神を見ながら、後ろで助言をするのだった。