撤退戦②
分かっていたけど、デカい奴は速い。
その分エネルギー消費速度も早いと言った所で、現状のピンチから脱出できるわけじゃない。
「縦!」
「回避、っとぉ!?」
俺がこのチームの指揮官だからか、それとも俺が一番弱い足手まといと見られているからか。俺が一番狙われる。
攻撃を受けそうになると周囲の誰かから、縦か横か、どちらの攻撃が来るか声が飛ぶので、その指示に従って回避をする。
何度か回避していればティターンもそれに対応してきて、前に向かって蹴りを入れたあと、横に避けた俺に追撃を仕掛けようとしてくる。
さすがにそういった動きをすると、最初から横に薙ぐような蹴りをするより初速が落ちるので、なんとか回避が間に合う。
回避成功後、俺はダッシュで距離を稼ぐ。
無理な攻撃をすれば、それだけ次の動きが遅くなるわけで。その間に前を進んでいるメンバーが雑魚狩りをして、進路の安全をクリアする。
その隙を突いて反撃という選択肢は、無い。
何度か仕掛けてみたのだが、装甲がかなり分厚くなったので、今まで以上に攻撃が通らなくなっていたのだ。
タイタンは関節部分とかもちゃんと保護するような構造なので、そのコピーらしいティターンの関節もきっちり保護されていた。
攻撃してもダメージが通らないので、反撃するだけ無駄なのである。
あと、外まで逃げ切るという選択肢も消えた。
俺たちに倒す手段が無いなら、もっと強い冒険者に押し付けたいのは山々なんだけど、そもそも逃げ切れないという現実を直視しないといけなかった。
希望的観測だけど、ティターンの巨大化が時間制限付きなら、巨大化が終わったタイミングで倒しきるしかないというのが現状の考え。
生き延びるため、撤退しながら敵の時間切れを待つしか無い。
まぁ、慌てていて思考が鈍っていたけど、冷静になればそれが最善だっていうのは最初から分かっただろうな。
予想外の事態だったとは言え、慌てすぎだ。
……ロボットより人間の方が不測の事態に対応出来ると思っていたけど、その“不測の事態”も、種類によってはロボットの方が冷静に対処できるんじゃないかと、考えを改めた。
今回に関しては、俺が残念だったってだけ、だろうけどな。
二時間が経った。
逃亡と回避だけならなんとかなる。
一度、大量のモンスターに囲まれそうになり、もう駄目かもしれないと思う場面もあったが、なんとか今も逃げ続けている。
「すまん」
「それは言わない約束だよ、おとっつぁん」
なお、俺は途中で体力が尽きたので、光織に抱えられて運んでもらっている。
俺はかなり鍛えていると思うし、魔法でブーストもできるけど、二時間は無理。走り続けられる光織に頼む事になった。
ある程度体力が回復したら自分で走るけど、今は光織たちやタイタンに頼らないと生き残れない。
死の淵に立ったら秘められた力が覚醒するとか、そんなイベントを持たない一般人の俺は、そんなあやふやなものに期待しない。
格好悪かろうと、情けなくても、現実的なら泥臭い手段を選ぶ。
「どんな手段でも取る」とまではいかないが、他人に迷惑をかけない範囲なら手段は選ばんよ。
ちなみに、光織たちは「身内」なので、他人ではない。
なので、遠慮無しに「お願い」をするよ。
出来ない事を頼んだ時は断られるだけなので、その時はその時である。
そうやって逃げ続けていると、ティターンの足が止まった。
足が止まるだけで走る勢いは殺せないため、そのままの体勢で倒れ、勢いよく近くに生えていた木にぶつかった。
「ようやく、魔力切れ?」
待ちに待った、粘りに粘った瞬間である。
もしもティターンの魔力切れなら、俺たちの勝ちだ。
ただ、油断は出来ない。
魔力の霧になっていないから、まだ死んではいない。
動き出す気配はないが、それがブラフで、近付いた途端に起き上がり、こちらに攻撃を仕掛けてくるかも知れない。
「巨大化されるかもしれないし。俺が少し、やってみる」
俺は浅めの『溶岩沼』にティターンを浸らせる。
体の半分も沈み込んでいないが、貧ぼっちゃ○スタイルでも全身が溶岩で熱せられれば、タダでは済まないだろう。
周りの木々にも火が点くが、安全な風上に待機すれば被害は出ない。
生木は燃えにくいので、溶岩の近くだけ延焼して、そこまで火の手は広がらない。
散開して様子を見守るが、ティターンは動き出すことも無く、そのまま体内を熱で破壊されたのか、黒い霧となって消えるのだった。




