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撤退戦①

 俺は、ここで死ぬ気なんてない。

 仲間も死なせるつもりなど無い。

 タイタンたちをただのロボットとして扱い、「時間稼ぎをしてこい」なんて言うつもりも無い。

 だから逃げる。


 幸い、トレインをしたところでここは不人気ダンジョン。他の冒険者を巻き込む事も無い。モンスターは外に出られないので、たちどころに外の人にも迷惑をかける事もない。

 いや、さすがに無関係な他の誰かを巻き込むのだとしたら、安易にみんなで逃げようなんて言えなかった。ギルドにも登録しているし、規約違反は良くない。

 自分が死ぬリスクを回避するのは確かに大事だが、だからといって別の誰かを死なせていいって理屈は通らないからな。

 ここが不人気ダンジョンで助かるよ。



 あとは、本当に助かるかどうかだけどな!

 俺たちが巨大化したティターンから逃げ切れるかどうか。それが問題だ。





 今のティターンは5m級のサイズで、光織たちが2m、タイタンが3m級である。

 これを人間に換算すると、ティターンを成人男性(170~180㎝ぐらい)とすると、光織たちが赤ちゃん(70㎝)で、タイタンでも4歳児(100㎝)となる。

 今の時代には「魔力」なんていうサイズの差を覆せるファンタジーパワーが存在するとしても、基本性能に圧倒的な開きがあれば、それも難しい。

 こんな大人と子供が本気の追いかけっこをして、どちらが勝つかを考えれば分かりやすいだろうか。体の大きさは、そのままとは言わないけど速力の差になるんだ。



 しかしこちらが有利な点もある。

 燃費だ。

 エネルギーの消費量を見れば、ティターンの方が圧倒的に早いだろう事は簡単に分かる。

 「再生」に加え「巨大化」などという消費の大きい能力を使ったのだから、その高い能力を発揮し続けるだけで相当なコストが嵩むだろう。


 冷静に考えて見れば、あれは俺の身体能力超強化と同じなのだ。長時間維持し続けられるものではないはず。

 特撮の怪人みたいに一方通行の巨大化なら、エネルギーの供給が消費に追いつかず、そのまま死ぬことすらあり得るのだ。さすがに魔力切れで元のサイズに戻るだろう。

 と言うか、それができるなら最初からやっているはず。


 はず、と予測が多いが、逃げ切れるかどうかの鍵はその一点に尽きる。

 そんな希望の一つでもなければ、やってられない。





「回避!!」


 こっちに有利な点がもう一つあった。

 圧倒的な身長差により、俺たちへの攻撃が難しくなっている事だ。


 背の低い子供を捕まえるには、大人はかがんで手を伸ばさねばならない。

 そういった姿勢は体勢が安定しないので、走り回りながらだと難しい。

 よって腕を使った攻撃は、「伸ばす」という手順を必要とするし、巨大化した上でさらにそんな事をすれば消費がシャレにならなくなるのか、ティターンはそんな事をしなかった。


 蹴撃であれば、これは簡単なように見える。

 また、俺や六花たちであれば踏み潰しも選択肢に入るだろう。

 これなら身長差は問題にならず、むしろ差があった方が蹴りやすい事すらある。


 ただ、後ろから蹴られるなら前に走り続ければいいだけ。回避と逃亡はワンセットになる。ついでに、前に向かって振り抜かれた足は横に逃げるだけで簡単に躱せる。

 サッカーボールは一度蹴った(加速した)後に減速するからドリブルできるけど、減速しない逃走者を蹴るのは意外と大変なのだ。


 あと、横に逃げる俺たちを追うように蹴ろうとすれば自身(ティターン)の足を止めることになるので、こちらとすればむしろ歓迎だ。当たる気はないが、もっと蹴ろうとしてくれと言いたい。

 軸になる足への力の加わり方を見れば縦か横か予測も容易いので、これも回避は難しいだけで、できなくもない。



 ドリブルのような蹴り方は減速しないが回避されやすいし、足払いのような蹴り方は足を止める。

 これは敵もやりにくいだろう。


 人間だけが相手なら、逃げる敵を後ろから攻撃するのは容易いけど、レドームで死角がないロボにしてみれば前からも後ろからも変わらないわけで。人間相手の常識は通用しない。


 よって、こちらが手間取るのは、逃げる先の雑魚モンスターだけである。 

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