マシンゴーレム⑤
切り札とか大仰な言葉を使っているけど、実際はただの短期決戦用魔法の事である。
効果は高いが、それ以上にコストが重い魔法は使い難いので、こういった分類をして普段は使わないようにしているのだ。
なので、切り札相当の魔法は結構な数がある。
今回は敵が強いという事もあり、シンプルな「強化系統の魔法」でさっさと終わらせることにする。
俺は昨日までに稼いだトレジャーボックスをすべて開封。ドロップアイテムの中から魔石を取り出す。
「3日分の魔石を対価に捧げる。≪身体能力・超強化≫」
選んだのは、魔石から魔力を引き出して使う強化魔法。
自前の魔力も勿論使うんだけど、自分の魔力で強化する以上に強くなれるというステキな魔法だ。
この魔法を作る時、参考にしたのはオーガ変異種の特殊能力、味方がやられるたびにステータスが上がっていくアレである。アレを魔法で再現してみた。
欠点は、魔石から魔力を引っ張っているので、強化の度合いと効果時間が魔石の質と量に依存する事。そもそも魔石を持っていないと意味が無いんだ。
そして使った後の反動が大きい事かな。魔法の効果が切れると、無理をした反動が一気に出る。
あと、武器の強化は出来ないので、素手での戦いとなってしまうのも欠点だな。
素手の戦闘はまぁ良いとして、反動もポーションで回復できるからいいんだけど、魔石を消費するのは経済的にもキツいので、たとえ強い魔法だろうと可能な限り使用を避けるべきである。
魔石を稼ぎに来て、それ以上に魔石を使うのはただの馬鹿だからな。
使いたくない魔法を使う羽目になったので、さっさと戦闘を終わらせようと思う。
俺は魔法剣を鞘にしまうと、とりあえずティターンを殴ることにした。
「オラァ!」
一番元気そうなティターンから潰すことにした。
どこぞのプラチナさんではないが、超強化された拳で目の前にあったティターンの腰のあたりを殴る。
なんの駆け引きも無く正面から殴りかかったが、こちらの身体能力が急激に変わった事もあり、敵は俺の動きに対応できない。
拳が装甲板にめり込み、その巨体を吹き飛ばした。
装甲を殴った拳が少し痛むけど、それ以上に相手へのダメージが大きい。
単純な出力勝負なら俺の勝ちだ。このまま押し切ってやろうと踏み込み、浮いたティターンに追撃を仕掛ける。
吹き飛ばされはしたが、足で地面を削りながら踏み止まったティターンに連続で拳をぶつける。
「オラオラオラオラ!!」
下手な殴り方をして吹き飛ばすよりも、倒して上から殴る方がやり易い。
俺は腰ではなく、今度は少し下、太ももあたりを中心にラッシュを仕掛けた。
するとティターンの腰より下を攻撃したので、吹き飛ぶのではなく浮いた体が回転し、顔面から地面にぶつかった。
拳の皮膚が裂け、血が出ているけど気にしない。倒れたティターンに、上から打ち下ろすように何度も殴る。
その途中に他のティターンが邪魔をしにきたが、タイタンが壁となってそれを妨害。
六花と晴海の支援もあり、俺は殴るのに集中できて、一体目のティターンをようやく破壊できた。
……痛みに耐えきれないわけじゃないけど、開封したドロップの中にあったポーションを1つ使用し、ボロボロになった拳を治した。
拳が壊れたら戦えなくなるからな。「これぐらいの傷なら」とケチケチする場面でもない。ケチってしまえば、逆に損をする。
二体目のティターンに取り掛かれば、一体目との戦いを見て俺の戦闘データを入手したからか、こちらの動きに対応してきた。
俺は攻撃をいなされ、躱され、ダメージを抑えられる。
こちらがティターンよりスペック的に上でも、敵は予測による動き出す速さでそれをカバーしていた。
このままでは時間がかかり過ぎて魔法の時間切れになる。そうなったら俺たちの負けだ。
ただし、一対一なら、だけど。
「姉さんの仇!」
「死んでないよ!?」
こちらには六花と晴海、タイタンたちがいる。
彼女らの攻撃がティターンの隙を作り、ダメージを与えていく。
俺の動きを学習したのはティターンだけではなく、味方もなのだ。俺のスピードになれてくれば連携も成立し、ティターンを追い詰めていく。
こいつは溶岩に足を突っ込んだ奴だったため、周囲は煙たいし装甲は熱されて殴ると火傷するし、大変だった。
大変だったが、これも全員でフルボッコにして倒す所まで持って行けた。
「すまん。あとは任せた」
が、ここで俺の魔法の効果が切れる。
カップラーメンが食べれるようになるちょうどいい時間。たったそれだけで俺の出番は終わり、残る一体に何かできる余力がなくなった。
エメラルドウルフやフォレストスパイダーの魔石ではこんなものである。
今回はまだウッドフェンリルを倒していなかったので、これが限界なのだった。
まぁ、最後の一体は沼の中に肩まで浸かっているので、俺が殴り殺すのには向かない状態だったけど。
最低限の仕事をした俺は火傷と魔法の反動を癒すために、本日二個目のポーションを使い、最後の一体をどうしようかと考えるのだった。




