俺と四宮教授と分岐点
及川准教授に、みんなで話し合うお題をパスしてみた。
レベルアップに関しては最初から折り込み済みだったけど、どのように成長するかは分かっていなかった。
こちらから成長の具合を報告していけば、今後の方針も立てやすくなるだろう。
そして、そのためにも全員で情報を共有するし、現場にいる四宮教授が巻き込まれるのは確実。
冒険者である俺の視点と、研究者の四宮教授の視点。そのどちらからも話を聞くのが必要だ。
これなら四宮教授も、人工知能の可能性について報告するだろうな。
俺にできる支援はその程度だ。
ロボットのレベルアップについて話していたからか、それで思い出したように、俺は左胸を見た。
「そういや、コレもレベルアップしてるんだよな」
俺は自分のスマホをポケットから取り出す。
冒険者向けのスマホは冒険に耐えるため、いざという時のお守りになるぐらい頑丈で壊れにくく、その分だけ重い。
レベルアップした今では魔力を通せば強度が増すので、本当に防具として心臓を守るように胸ポケットに入れるのが習慣になっている。
原神のように、バッテリーが独自にレベルアップしてくれても面白かったのだが、流石にごく普通のバッテリーにそれを期待するのは無理があるしな。
このスマホは俺が冒険者を始めた5年前に買って、以降はずっと使っている年代物だ。
スマホなんて3年も使えば買い換えるものだと思うし、冒険者を引退したから買い換えてもいいんだけど。
「愛着もあるし。性能に不満もないからまだいいか」
俺はスマホでゲームとかしないし、電話とメール機能さえ問題なければ気にしない。
買い換えたとしても、思い出アイテムとして残しておこう。
役に立つとか立たないとか関係なく、これを捨てるなんてとんでもないのだ。
「よし! みんなに相談しよう!!」
俺が大学からダンジョン前のコンテナハウスに戻ると、ようやく決意を固めた四宮教授の声がした。
俺のお節介が実る前に、自力で立ち上がったようだ。
「一文字君! ようやく決めたよ!」
「そのようですね。
こちらからの報告になりますが、及川准教授に、原神のレベルアップについて説明をしてきました。ただし、門外漢の私には難しくてよく分からない人工知能の話はしていないので、四宮教授からの説明をお願いします」
「……心配をかけたようだが、安心してくれたまえ。ここからは一人で抱え込んだりしないとも。
元より原神は私一人のものではなく、人工知能の発生とて私の両腕には余る話なのだからね。よく話し合って決めるとも」
「及川准教授は、レベルアップについて情報収集は行うと言っていましたが、計画に変更はなく、プロモーション動画の公開も予定通り行うと言っていました。
まぁ、頑張ってください」
「うむ! 任せたまえ!!」
四宮教授、完全復活。
これなら大丈夫だな。
そんな四宮教授は、これから仲間たちと会議を行うと言ってコンテナハウスに戻っていった。
そんな訳で、遅くなったが本日のノルマということで、俺は原神達を連れてダンジョンに入った。
「では、ゴブリンを見つけ次第殲滅してくれ」
人工知能が進化した今の原神は、完全に自律行動が可能になっている。声に出して指示を出しておけば、あとは独自判断が可能なのだ。
原神がゴブリンに遅れをとるわけがないと信頼できるので、安心して送り出せる。
もはや、後ろを付いて歩き、いちいちスマホで指示を出す必要すらない。
反面、スマホからの操作は受け付けなくなっている。
ソフトウェアがユニークになってしまったので、アプリからの指示が届かないのだ。
自律行動という進化をしたとはいえ、その点だけは退化していた。
できればスマホから指示を出したいし、原神のステータスチェックもしたかったんだけどな。それすら無理なのだ。
付け加えると、進化しても管理者を求めているのか、俺がダンジョンを出ると、それに付いて来ようとする。
ダンジョン内であれば見えないところに居てもいいけど、ダンジョンの外は駄目らしい。ダンジョン内を掃除し終えるおよそ二時間、俺も待機していないといけない。
何がどうなってこんな進化をしたのかは分からないが、現実がこうなのだから、こういうものだと受け入れるしかない。
喚いたところでどうにもならないからな。
それに、鍛冶をしていれば時間なんてすぐに過ぎるし、問題ないのだ。
「体にピッタリ合う板を作るのが無理なら、小さい金属板をうろこ状に貼り付けるラメラーアーマーでも作ればいいんだよ。
チェインメイルでもいいかもなー」
俺は溶鉱炉ではなく加熱炉に火を入れると、ゴブリンメタルの合金に熱を加える。
これらの在庫は過剰にあるのだから、少し消費したい。
だから武器だけでなく原神用の防具でも作れば金属のレベルアップとか色々捗るだろうと考え、盾やら装甲板などの作成をするのだった。