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魔物の種子①

 その後に関しては、ただの作業である。

 最初にどれだけ苦戦しようと、一度“倒し方”を覚えた三人娘は無敵である。


「ウッドフェンリルは、哀れ、ただの経験値さんに成り果てましたとさ」

「そうなる事を目標にしていたのは確かなのですけれど。早いですね」

「速過ぎるのはエキセントリ○ク号だね!」


 一日一回のウッドフェンリル戦は、ボーナスステージ。

 売れもしない貴重品(ドロップアイテム)が増えていく事に、もはや苦笑しか出てこない。

 帰ってきたあと、三人で動画を鑑賞しているが、ここまでウッドフェンリルが雑魚扱いでは、喜ぶのが憚られるような空気であった。





「ところで、ですけれど」


 そんな空気を変えるように、及川教授が口を開いた。


「例の種子ですが、順調に発芽しましたよ」

「あ、種の発芽って二週間ぐらいでしたっけ。もうそんな状態だったんですね」


 話題になったのは、初期にウッドフェンリルからドロップした種子である。

 現在は用途不明の、謎植物だ。研究のため、自分たちで育て始めている。



 この種子だが、用途は見つかっていないけど、それでも多少は情報が出回っている。

 研究機関も無能じゃないんだ。普通の人が思いつく方法はだいたい試されていて、その結果が公開されている。

 その上で大した成果が出ていないと考えているのは、種子を安定して手に入れられるダンジョンが不遇なままである事実を見ると、そこまで間違っていないと思う。


 発芽条件は植物が生えているダンジョンである事。

 樹木なのは分かっているが、若木から先に育たず、花が咲いたり実を付ける所まで至らない事から、その先に至る条件が不明という話。

 その昔及川教授らと研究していた植物に魔力を宿させる実験も試されたあとで、あの時の経験が役に立つという流れにもならない。


 なお、ダンジョンから外に持ち出す事は可能だが、すぐに枯れてしまうのでこれまた違うという話である。

 魔石など各種ドロップアイテムやポーションを肥料にするとか、鬼鉄の生成のような手順も関係無い。

 温度や湿度、光の有無すら関係無い。周囲の温度を高温やマイナスにするなどといったアプローチすら意味をなさない。

 接ぎ木をした人もいたようだが、こちらも成果は出なかった。

 武器素材にした人も、上手くいっていないと言っている。


 強いて試されていない事を挙げるとすれば、共生関係にある生物の組み合わせである。

 もしかしたら、特定のモンスターの居る所で育てないと駄目だとか、そういった話があるのかも知れない。

 残念ながら、ウッドフェンリルの出るダンジョンは関係無いようだったが。



 研究され始めた初期こそ需要があったが、今ではほとんどの企業や研究機関が入手済みとなり、全く売れる気配がない。

 若木の段階で手に入る葉っぱや樹液などの利用方法も見つかっていないので、本格的に利用価値が見当たらず、ただ珍しい植物と言うだけなのが現在の評価。

 

「もしかしたら、一文字さんにお願いするかも知れません。

 例えばですよ。エメラルドウルフにこの種子を食べさせる、育った苗木の根をウッドフェンリルに突き刺すなど、モンスターを利用したアプローチが必要なケースがありますから」

「……冬虫夏草的な、アレですか」

「そうですね。それに近い可能性を考えています。

 ちなみに、ゴブリンでは駄目でした」

「すみません。軽くドン引きしました」


 当たり前だが、魔石を土代わりにする、なんなら開封前のトレジャーボックスを敷き詰めた中で発芽させようとした人もいた。土を使わない、水中での発芽も先人が既に挑戦済みである。

 が、これらの実験は上手くいかず、普通に土を使って発芽させるのが一般的となった。


 そこで及川教授は、他の方法としてモンスターの体を苗床にする方法を思いついた。

 これはさすがに試した人がおらず、居たとしても情報を表に出していない。

 モンスターは死んだら黒い霧となって消滅するので、その難易度が高いというのも挑戦されていない理由である。


 ……そして軽く実験済みという段階で、俺は軽くと言いつつ、内心ではかなり引いてしまたよ。

 怖いよ!



「こちらはいっそのこと、種そのものを使った何か出来ないかを研究中だね! 一つは潰して、油を採らせてもらったよ!」

「あ、こっちはマトモだ」


 そして四宮教授は種を発芽させる事を考えず、そのまま素材として扱う方法で利用手段の検討を始めた。

 そういう使い方をすると素材が大量に必要になるが、俺たちが供給するなら悪くない判断だと思う。


 いっその事。


「その種を肥料に使って、別の種を育てるのも有りかも知れませんね」

「……ああ、そういう考え方もありましたね」

「若木まで育てたあと、刈り取り灰にして肥料にする。それに近い事をした人なら、居そうな気もするのだよ?

 若木まで育てられるのだから、枝や葉っぱは長く供給できるのだからね。いや、種の状態で……。

 では、油の搾りかすを肥料にする所から始めてみようか」


 この種子はボスドロップなんだし、きっと面白い結果があるはずなんだよ。

 とにかく、数を使って試していくしかないよな。

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