ウッドフェンリル攻略⑥
「そもそも、着火剤の燃焼で発生する温度で生木を焼こうというのは現実的ではありませんからね。それなら、ネット小説でおなじみのテルミット反応に挑戦した方が良いかもしれません。
その場合は発生する紫外線対策や、熱の効果範囲などをちゃんと考えましょう。それらを考慮せずに行えば、ただの自爆になってしまいますので注意が必要です」
着火剤の効果がなかった事については、及川教授から当たり前だと突っ込まれる。
いや。普通に考えて、顔が燃えれば多少は効果があると思うんだけど。水分を多く含む生木を焼くのが無理とは分かっているけど、光学的センサーの無効化ぐらいは出来ると思ったわけなんだが。
「眼球があって、それで視界を得ているモンスターならばともかく、アレはウッドゴーレムの亜種だと思いますよ。よって、ウッドフェンリルは魔力・魔法的な視界を確保していると考えるのが自然です。
ですので、焼くのは攻撃手段と考えましょう」
「……了解です。
でも、テルミット反応は危険じゃないですか? かなり危ないと聞きますけど」
「危ないから、効果があるのですよ」
失敗しても構わないデータ取りの一環だけど、少しぐらいは意味があったと思ってやったんだけど。着火剤の有用性についてあっさり論破されたので、ちょっとだけ反論してみる。
だが、その反論もあっさり潰され、更にへこむ事に。反発心だけで相手の言葉を否定した人間の末路など、こんなものである。
なお、テルミット反応とは、酸化した金属とアルミニウムの粉末を混ぜてから燃焼させると、強い光と高温を発生させながらアルミニウムが酸化し、元となった金属が還元されるという現象の事だ。
酸化鉄を使った場合の熱は3000度になるとも言われ、時々高校の授業でやらかした生徒や教師が火傷して病院に運び込まれる事故を起こすぐらい危険な行為でもある。
ウチのように工場のある会社であれば、アルミニウムや酸化鉄の粉末は割と簡単に物は用意できる。第2類の危険物なので、取り扱いには資格が要るけどね。
使うとしても、これはこれで資格取得の準備をしないといけないわけだな。使えるのはまだ先の話となる。
それよりも、及川教授には新しい装備の発注を依頼している。
バトルクロス用に作った大出力のパイルバンカーを、光織たちに使わせるための装備だ。
専用のカートリッジで魔法剣を打ち出せるようにカスタマイズしてもらった。
パイルバンカーは撃ち出すのに弾を使うから攻撃回数の限られる攻撃になるけれど、とにかく威力を出そうとするなら、これが最適解のはずである。
「重量バランスが悪くなったとしても、それを前提に動きを考えるだけだね。ウッドフェンリル戦を念頭に置いた習熟訓練を頑張らせているのを見ていると、これなら大丈夫だと思えるよ。
焦らず、ここで経験を積ませれば、必ずその先まで通用するようになるね」
パイルバンカーは弾薬を使うので一回の戦闘で多用できる攻撃ではないが、弾薬さえ補給すれば問題ないわけで、ボス戦周回をするのに支障はない。
そして高威力の武器を使う反動で普通なら体、特に関節への負担を気にしないといけないんだけど、光織たちは再生能力があるので、それも問題ないはずである。
彼女らの進化は、これまで選べなかった選択肢を次々に拾い上げているよ。
余談になるけど、三人娘は再生能力前提で、戦闘機動の出力平均を高めに変更してある。
高出力機動で多少負荷が大きくなってでも、戦闘時間を減らす方が有益になったからだ。回復にかかる負担と戦闘機動の負荷のバランスを考えての判断である。
昔の三人娘が相手なら一対三でも勝つ自信があったけど、今の三人娘が相手では勝てるかどうか微妙である。
俺自身も成長しているし、見せていない魔法がかなりあるからまだ勝てない事はないはずだけど……ちょっと自信が揺らいでしまった。
この子らも強くなったよなーって思うよ。本当に。




