ウッドフェンリル攻略③
「デカいは強い、か。見た目からして、圧迫感があるよな。距離感が狂う」
これまでは大したメリットもなく時間がかかるからとパスしていたウッドフェンリル戦。
生では初めて見るその巨体に圧倒される。
ウッドフェンリルは、見た目は巨大な狼だ。
しかし中身は樹木でできているので、刃が通りにくいなど、植物的な要素も持っている。
筋肉とかないのにどうやって動いているんだろうとか、気になるところはたくさんあるが、それは今気にしても仕方のない話である。
では、初顔合わせも終わったので開戦だ。
双方の距離は約50mぐらい。
俺たちは武器を構え、ウッドフェンリルは大きく息を吸い込み、咆哮の前動作。
「アーユーレディー? ヒアウィーゴー!」
「二番六花選手、第一投、投げたー!」
「咆哮中の攻撃は、ご遠慮くださーい!」
デカいモンスターは、なぜ戦闘前に咆哮をするのだろうか?
こちらへの威圧とか牽制なんだろうけど、大きな隙を晒してくれる。
俺たちは距離があるのを幸いと、ウッドフェンリルに槍を投げて一斉攻撃。大きく開いた口の中に命中させた。
生物にとって口の中なんてただの弱点で、敵の前に見せ付けるものではない。
距離があるからと、馬鹿な事をしているなとしか思わない。
まあ、大声を出されてビビる人もそれなりにいるので、普通の人を相手にするなら有効なんだろうけど、戦う人間を前にする事ではないよな。
ウッドフェンリルも、これはダメージが入ったのだろう。
開幕一番の咆哮は俺たちの槍によって防がれるのだった。
「大斬撃、っと。
かったいなぁ」
体が大きいモンスターにとって、俺たち視点で距離があるというのは、大した問題ではない。
一駆けすれば詰められる、その程度の距離だからだ。
先制攻撃を受けたウッドフェンリルがこちらに駆け出せば、50mなどあっという間にゼロになる。
大型トラックの突進にも例えられるその突撃を回避した俺は、すれ違いざまに剣で一撃を入れた。
が、石でできたゴーレムすらやすやす切り裂く一撃でも、刃が深く入らない。剣は前足に当たったのだが、薄皮一枚、表面を軽く撫でる程度のダメージであった。
剣がウッドフェンリルの体に食い込んで抜けなくなるのを覚悟して大振りの攻撃を仕掛けたというのに、これではそれ以前の状態だった。
「物理的な防御じゃなくて、魔法的な防御か。これはキツい」
ウッドフェンリルの攻撃を回避するのは、体力を使うけど、単調だから難しくはない。
しかし、防御が抜けないというのはやや予想外だ。想定していない。
硬いとは聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。魔法剣が魔力で切れ味アップをするように、ウッドフェンリルは魔力で自分の皮膚や筋肉を硬くしているようだ。
「デカい分、体重を支えるのに強度アップをしている? 考えてみれば当たり前だったな」
もっとも、その理由は複雑に考えなくてもすぐに出てくる。
巨体を支える骨だけでなく、巨体を素早く動かす筋肉もまた、魔力で強化されているからだろう。その強靭さが防御力に反映されている。
だから剣は通らず、倒すに至らない。
−−こいつは植物の体で、筋肉で動いていないけどな!
「相手の硬さはゴーレム以上! 魔力を普段の倍は込めていかないとダメージを与えられないと思え!」
初手の槍投げが上手く行ったので、少しだけ敵の評価を下方修正していたようだ。
油断していたつもりはないが、初めて戦う相手なのだから、力加減をミスっていた。
魔力には、魔力を。
相手の硬さに対抗すべく、必殺の意志で、手にした剣に普段の数倍の魔力を込める。
ペース配分も何も、ダメージを与えられないようでは戦闘にならないから、まずは戦えるステージに立たねばならない。
「たたっ斬る!」
こいつは短期決戦で終わらせるのが正解だろう。
俺は光織たちへと情報を投げつけると、気合を入れ直し、ウッドフェンリルに襲いかかった。




