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俺と准教授と次のステップ

「レベルアップについては、こちらから先に何かする意思はないかな?

 言ってしまえば、ただの鉄の剣を売るのと同じ扱いになるよ。こちらでレベルアップをさせるのは、正直なところ、事業にするには効率が悪すぎるからね。

 ダンジョンを複数確保し、そこで効率よくレベル上げを行ったとして、それはどれぐらいの期間になると思うのかな? 今回のように、1ヶ月でレベルアップした事は幸運に恵まれたとも考えられるよね。

 これを事業とするには、手が足りないと言わざるを得ないよ」


 こちらの質問に、及川准教授は淀みなく答えた。

 これは俺も想定の範囲内で、これぐらいの事は及川准教授らも先に考えていたのだろう。

 うん。話が早くて助かるね。


「では、原神に俺が作った合金を使用するとなると、どうでしょう。

 鉄にゴブリンメタルを混ぜた合金は、通常の鉄よりも魔力への親和性が高い。つまり、金属としての性能がわずかに劣ると言っても、ある程度レベルアップした状態になります。

 これは鉄に限った話ではなく、他にも応用ができる話だと思います。適量の、全体で見ればわずかなゴブリンメタルを混ぜた金属を用いるだけで、レベルアップの効率がどう変化するのか、興味はありませんか?」


 本題はこちら。

 ゴブリンメタルってそのまま使う分には役立たずでも、ダンジョンで使う合金の素材としてはまだ使い道があるのだと思う。

 それを意識した上で、原神をどうするか及川准教授に考えて欲しいのだ。


「完全に、全身に合金を使うのは現実的ではないと思います。原神は格闘が可能な強度が売りのロボットですし、強度の低下はその長所を殺す事になりますから。

 しかしレベルアップを前提とした後であれば、長所をより伸ばしていると見る事もできるわけでして。一概に弱体化したとも言えません。

 そもそも、生産台数の低下はそこまで気にする事ではないように思います。レベルアップしにくいノーマルバージョンを別に作る事もできます。元々の販売台数がそこまで出ると思っていませんし、いざとなれば他の不人気ダンジョンを抑えるという手も使えますから、大きな不利益はないものと言うのが私の意見ですね。

 私はロボットに関しては門外漢なので強く言えないですが、一考の余地はあると、そう考えています」


 それだけでなく、これはこれで面白いと思う方向性も提示したりする。


「これは別件になりますが、原神のサイズを大きくして、中に人を入れるという商売も可能になると考えていますよ。レベルアップを安全に行う事業ですね。

 レベルアップは、本人が戦う必要などありません。戦闘は原神に任せ、中の人を数日でレベルアップに導く。そういった方向性も提案させていただきます」

「さすがにそれは無理だよ! 中の人の安全性とか、色々とクリアするべきハードルが高すぎる!!」


 なお、こうやって複数の提案をするとき、本命を先にした後で、突拍子もない意見を後出しすると、本命の要求が通りやすくなるという効果があるらしい。こちらが比較対象を用意する事で、本命の意見がよりいいものに見えてしまうという交渉テクニックだと教わった。


 人間、何かを考えるときに、無意識に基準を求める。

 普通であれば自分の中の常識を定規にするのだが、それをこちらの用意したものに置き換える。

 すると、多少はこちらが相手の思考を誘導できるのだ。


 もちろん、誘導したところで相手を操れるわけではない。

 本命の意見がマシに見える、その程度で終わるパターンもある。



 今回、及川准教授は。


「どちらにせよ、現在のプランを止める理由はありませんね。

 販売まではまだ時間があります。それまでに4号機と5号機で一文字さんが言った言葉がどこまで正しいか、自分たちで確認する必要がありますね。レベルアップの効果が一定でなければ商用には向きませんから。

 合金の使用に関しては、現段階では回答できません。設計を一から見直すレベルの問題ですから。計算を最初からやり直しですよ。

 そして、巨大化と中に人を入れるというお話については、見送るものだと思ってください。こちらはさすがに現実的ではありませんから」


 俺の出した最後の提案を完全にはねのけつつ、他の提案については前向きな姿勢を見せる。

 出された答えはこれまでの計画をベースとして安定・安全を確保しつつ、今後の開発課題としてレベルアップとゴブリンメタルの合金について前向きな姿勢を見せるものだった。



 ロボットに限った話ではないが、一度開発を終えたからと言ってそれがずっと売れ続けるわけではない。

 客先フィードバックで不具合を潰し、細かい改善を行うのは当然として、価格の低下やさらなる性能向上を目指さないと他社の製品にシェアを奪われる。

 家電やパソコンなどは特にその傾向が顕著で、製品は世間の技術の進歩に対応しないといけないのである。


「ええ、では、皆さんでよく話し合ってくださいね」


 これなら、俺の目的は達成されるだろうね。

 四宮教授も、他の人に相談を投げかけやすくなるだろうよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ今のままなら作ってみたじゃなく、購入してみたか使ってみた位なので、ここいらでワンステップ踏み込んで制作に何らかの形で関わって本当の意味での作ってみたになる必要はあるよね 及川准教授が動…
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