寄り道④
話し合いはスムーズに終わった。
俺たちがメインアタッカーとして道中の敵を先行して倒し、此花さんのチームが後方支援の人を護衛する。
ベースを作った後、俺たちは周辺の巡回を行い、敵を間引く。此花さんたちはベースで周辺の警戒をする。
ロボットは光織たちとタイタン6体を投入。それ以上は必要ないとした。
光織たちは俺と同じように振る舞うが、タイタンに任せる仕事は夜警のみで、日中は同行するだけで、戦力としない。
此花さんたちからも夜警のメンバーは出すものの、こちらもロボットに任せているという話だ。メーカーはうちではなく他社だったが。
残念ながら原神やらタイタンの一般販売はしていないのだから、仕方がない。当社のロボットは自衛隊と冒険者ギルドに卸す分だけで終了である。
生産量を増やそうにも、確保しているダンジョンが足りないしなぁ……。
お役人さんは「メーカーなんだからもっとロボットを出して欲しい」という顔をしていたが、『火竜の塒』で戦力的にカウントできるタイタンは高いのだ。リスク低減は大事だが、そのあたりを説明すると、予算という現実の前に膝をついた。
ここで何かを言って費用が増えた場合、「その費用は本当に必要だったのか?」と確実に他の部署からクレームが来るのだ。俺たちから「そこまでしなくていい」「不要だった」と証言されてしまえば立場がなくなる。
そこは俺もよく悩む部分で、理想と現実と言うか、出来る事と出来ない事というか、建前と本音の使い分けをしなきゃいけなくて、だね。どこかで折り合いをつけるために妥協と諦めを強いられているから。気持ちはわかるんだよ、良くも悪くも。だから諦めてください。
「しかし、良かったのかね。一文字君が露払い役とは」
「むしろ、彼らの傍にいてあれこれ聞かれる方が嫌だったんですよ。相手にその手のプロが居たら最悪じゃないですか。油断して口を滑らせるとか、そういった事も考えられるので。
それに、上位の冒険者様が来るのは、俺たちがベースを作った後です。顔を売る時間も無いし、今回は縁が無かったという事で」
打ち合わせで聞けなかった話。
上位の冒険者が来るとは聞いているけど、誰が来るかまでは教えてもらえなかった。
それを知られると面倒な事になり、騒ぎが起こるから、機密漏洩を防ぐために俺たちにも教えられないと言われた。
俺たちが信用できないという話ではなく、ここでの会話が聞かれているかもしれないのだとか。
「防諜対策をちゃんとやればいいと思われるかもしれないが、念には念を入れたい」と言われれば、納得するしかない。
実際、それを聞いたところでこちらが何をするかなど、業務の範囲外なのだから。
また、上位冒険者は俺たちと同行しないと説明されている。
その人は一日遅れで俺たちが先行した道を行き、用意されたベースキャンプで一泊し、ボスを速攻で倒したらそのまま帰宅という流れになる。
かなりの強行軍に見えるけど、補給の心配が無いなら、俺でも同じ速度で移動はできる。ボス戦の消耗やリスクを考えると最後まで同じ事はできないけど。
ダンジョン攻略で一番面倒なのは物資の持ち込みだから。そこさえクリアすれば無理も可能だ。
おかげで、俺が上位冒険者と顔を合わせるのはほんの少しだけ。
コネ作りがしたかった場合は肩透かしもいいところだな。
もしかしたら、一度も顔を合わせず終わるかもしれない。
これはむしろ俺にとって好都合で、もともと俺は上位の冒険者とコネは欲しがっていたが、それは商売人としてである。冒険者としてではない。
むしろ冒険者としてコネを作ると光織たちの情報を隠し難くなるので、あまり欲しくない。
顔を合わせなくていいのはむしろ助かる。だから護衛ではなく遊撃、外をメインにする事にしたのだ。
もっとも、上位冒険者様の後方支援のメンバーに手の内を見られれば、後で興味を持たれるかもしれない。
最終的なリスクだけはしっかり残っているので、結局は油断できるほど楽でもない。
モンスターよりも人間のほうが厄介で警戒しなきゃいけない現状に思うところがあるものの、人の中で生きているのだから、そりゃしょうがないよなって思うよ。
いつだって、人間の敵は人間なのだ。
ダンジョンができてモンスターが世界に溢れかえろうと、この真理だけは変わらない。『○ォーキング・デッド』でも、ゾンビはオマケで醜い人間同士の殺し合いばかりだしな。
だから大事な身内を守るため、能力をセーブして、目立たない様に頑張らせてもらおうかな。
こんな寄り道で、無駄に時間と労力を使いたくないんだから。




