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寄り道③

 レッドサラマンダーを狩る冒険者パーティは、だいたい6チームあると聞いていた。

 そのほとんどが半年に1回ぐらいしか仕事をしないため、レッドサラマンダーのドロップアイテムは月に1個しか供給されない。

 そしてエリクサー素材になるアイテムは出現頻度1割程度と言われていて、このダンジョンからは年に1個出るぐらいのペースになる。


 エリクサーネタはもういいんだけど、とにかく6チームいたんだから、話し合いの場にはそれなりの人数が集まっているはずであった。

 チーム代表者だけであっても、6人はいないとおかしいはずなんだけど。

 なぜか、その日の話し合いには1人しか他パーティの人がいなかった。



 打ち合わせの15分前に指定されたビルの会議室に行くと、部屋には一人の女性が席に座っており、他には誰も居なかった。

 一瞬、部屋を間違えたかと思い部屋のプレートを見れば、「火竜の塒攻略支援 打ち合わせ」と書かれている。部屋を間違えたという事は無さそうだ。


「何か聞いていますか?」

「いいえ、何も聞いていません。わたくし、あまりあの方たちとはお話しませんので」


 時間が経っても、誰も来ない。

 不安になった俺は、先客の同業者との交流を図り、雑談をしていた。


 他の人が来ない。

 ここに来た他のパーティのリーダーさん、『此花(このはな) 日葵(ひまり)』という女性冒険者と、二人揃って首をかしげる。



 此花さんは30代半ばの既婚者であり、子持ちである。

 冒険者としては半分引退した状態で、あまり長時間拘束されない現状の活動だけで気楽に生活している、緩い雰囲気の人だった。


 此花さんは同じダンジョンに潜る他の冒険者たちとは顔見知りではあるが、仕事でもプライベートでも関りが無く、たまにダンジョンに潜る日がバッティングしたときに調整のため、会話する程度の関係らしい。



 まぁ、同じダンジョンに潜るってだけだと、その程度の関係だろうね。俺だって、最近は積極的に他の冒険者と仲良くしようとはしてこなかったし。

 昔は先輩冒険者に頭を下げたり、色々やっていたんだけど。ある程度食えるようになると、もういいかなーって考えてしまうのだ。


 そういえば、引退した当初は史郎の件もあって冒険者仲間に繋がりがあったけど、最近は彼らとあんまりコミュニケーションを取ってないな。

 なんて言うか、高校卒業後の元同級生なみに話さなくなってる。

 気が向いたら、ちょっと顔を出すか。今は冒険者に復帰したんだからな。





「お待たせしました。そろそろお時間ですので、話し合いを始めたいと思います」


 結局、他の冒険者は来なかった。

 後方支援、露払いを2チームだけでやれというのか。

 疑問は尽きないが、まずは担当者の説明を聞く。


「今回来ていただいたのは、一文字様と此花様の2チームのみとなります。

 他の方々とは条件の折り合いがつきませんでした」


 今回の依頼は、国からの要請である。個人的には断りたかったが、それでも自衛隊との伝手を維持したいというか、変に目を付けられたくない俺は依頼を引き受ける選択をした。

 此花さんの方は、下手にゴネてブルーサラマンダーが討伐されず、レッドサラマンダー討伐に支障が出るのを嫌った形だ。それと、国に貢献したという名誉を得て子供に良い所を見せたいらしい。


 だが他の冒険者は国に何か言われようと気にするつもりは無く、上位の冒険者とのコネも欲しくない。金は欲しいがブルーサラマンダーに挑む気概は無く、後方支援でレッドサラマンダー討伐ほどの実入りが無いとなれば、「働きたくない」の一言で済ませてしまう。

 俺は上位の冒険者にアピールしようとするんじゃないかと想像していたが、そんな事は全くなかったのである。


 いわば会社で昇進したくない社員のようなものだろう。

 「社員になると逃げられないけど、派遣社員なら嫌な職場もさっさと辞められるから身軽でいい」と言う上昇志向の無い若者も増えているという。

 レッドサラマンダーを卒業せず、もっと儲かる次のダンジョンに向かわないのだから、そういう考えをする可能性も有ったな。自分や知り合いを基準にしたら、かなり大きく予想を外してしまった。



「では、業務内容を説明させていただきます」


 仕事の話は、事前に聞いていた情報通り、上位冒険者の後方支援チームの保護だ。

 俺からしてみれば、今回の依頼は安くもない、適切な値段設定である。

 不当に安く値切られてもいないし、ロボット運用の経費も認められているので、金銭的には悪くない仕事だ。

 人目がある事だけが面倒だけど、それさえなければ下見のついで程度のお仕事でしかない。


 俺がロボットを大量に私有している事はギルドも把握済みなので、そこから国に情報が提出されている事もあり、出来るだけ多くのロボットの投入を要求された。

 足りない人を、ロボットで補おうという考えである。


 だがこの要請は、バッテリーは用意してもらえるが、戦闘の頻度などを考えると、あまり嬉しくなかったりする。

 一つのダンジョンにタイタンを大量投入しても仕事の性質上、戦闘経験値と魔石の稼ぎが悪くなるのだ。それにいつものダンジョンを周回させないと、万華鋼の生産と運用にも悪い影響が出てしまう。

 ダンジョン1つでこちらの必要とする魔石が全部賄えるようであれば、そもそも複数のダンジョンを購入したりはしないのである。


 よって、全戦力を投入するつもりは全く無い。

 万華鋼装備を使わないのもそうだが、俺は使える戦力を制限しつつ、どのように依頼を熟すか、此花さんと相談をするのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無理して破綻したら元も子もない、ということで。 図々しい要求はぜひサクッと拒否ってほしい。 ていうか主人公さん、冒険者というより、普通に実業家ですよね。 いや、知ってましたが。 マシン類のイ…
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