俺と准教授とレベルアップ
「及川准教授、お久しぶりです」
「こんにちは、一文字さん。原神の調子はどうですか?」
「好調ですね。あの山のダンジョンでは敵無しといった所です」
大学の方に顔を出し、研究室で及川准教授とお茶を飲む。
研究室の実験場では、原神4号機と5号機が組み手をしていた。
これも動画として使うようで、原神の各パーツに描かれたロボットアニメのマークが、全て別のものになっている。
そのまま使うと権利関係でうるさく言われる可能性があるからな。量産前に変な騒動を起こさないよう気を遣い始めていた。
「それで、お話というのは?」
「原神のレベルアップについてですね」
まず、俺は原神がレベルアップし、魔力を持ち始めた事について説明することにした。
「おそらくバッテリーに使われているものと、ナックルバンカーの炸薬にしている魔石が影響しているようですけど、レベルアップした原神は魔力を持ち始めました。
調査を行い経過を見ていかないと断言はできませんが、魔力を使える間は能力が向上し、バッテリーが減りにくくなっていると思われます」
AIが知性を獲得しつつあるとか、そういった話は横に置く。
単純に、ロボット工学の研究者である及川准教授が興味を持ちそうな分野の話を振ってみる。
「……ロボットも、レベルアップをするんですね」
「まぁ、普通に考えたら、しない方がおかしいですよ。武器は言うに及ばず、着ていた服や履いていた靴もレベルアップはするんですから」
ダンジョンでモンスターを殺すと、その近くにいた人や物は魔力への親和性が高まる。
距離が近い方がその影響は大きく、物よりは人の方が影響を受けやすいので、槍やら剣で戦う原神がレベルアップするのは当然の結果だ。
アメリカなどのように銃がメイン武器では、人も武器もレベルアップはあまりしない。
アメリカは銃社会なのでモンスターの駆逐能力こそ高いものの、実は高レベル冒険者があまりいないという愉快な状況だったりする。
原神のレベルアップとその成長の方向性に関してだけど、その細かい話は冒険者としての経験から、おおよその分析結果を伝えておく。
物質の物理特性の検査であれば及川准教授が専門家だけど、冒険者関連のあれこれであれば俺の専門分野で説明できる程度に詳しいのだ。
ここは専門家として、分かる事を伝えていこう。
「元々、一般的な冒険者は2ヶ月程度でゴブリンを卒業していくのが一般的です。
その間に一人の冒険者が狩るゴブリンは、おおよそ200体程度でしょう。原神であれば、1週間あれば余裕で狩る数ですね」
なお、この情報のソースは自分たち。
それ以外にもネット上には体験談などが溢れかえっていて、それらと比較しても特におかしな点は無く、そういうものなのだろうというのが定説だ。
今のところ、この話に目立った反論は無い。
そのうち統計も出てくるだろうね。そうなれば、冒険者ももっと数が増える気がする。
何らかの基準があれば、ゴールまでの距離がはっきりするため、そこまで頑張ってくれる人も増えそうな気がするんだけど。
「原神は3体一組で2ヶ月間、メンテ日以外では休まずゴブリンを100体以上倒しています。
そうなると、これまで52日は頑張ってきたわけで、原神1体当たり1700体以上のゴブリンを倒したことになります。一般的な冒険者の8倍以上ですね。
人に比べるとレベルアップしにくいですけど、物もレベルアップはするんです。原神が魔力を持ち始めたのは、不思議でもなんでもありません」
という事で、原神がレベルアップするのはこれまでの常識通りだとしたうえで。
「今の原神は、魔力を持っているだけでなく、魔力の使用ができる状態です。火の玉を飛ばすような魔法は使えませんが、身体強化と同じことができるようになっているんです。
そしてバッテリーに関して言えば、魔力を回復させるような能力を持ちつつあります。そしてそこから全身に魔力を行き渡るようにしていました。何と言いますか、魔力版の心臓のようなものになっていたんですね」
ここまでくると、普通のロボットとはとても言えなくなる。
それも含め、四宮教授が抱える問題と同種の問題を投げかけてみよう。
「原神であれば、他のものにも起きうる現象だと、私は考えています。出荷した原神は、どこかで確実にレベルアップすると思っています」
まぁ、影響を考えると、そこまで変な事ではないけどね。
「出荷した後で、原神がレベルアップする。
その事について、及川准教授はどうお考えでしょうか?」
さあ、頑張って悩んでくださいな。
これは、俺が考える事じゃないからね。