寄り道②
「……案内と、バックアップの支援要請が来ました」
特殊個体が現れて七日。
ようやく上位の冒険者の予定があき、ブルーサラマンダーの番を討伐してもらえるという段階になった。
予定を開けるのに七日もかかったのは誰が挑むのか、その調整に手間取った結果である。
彼らはかなり忙しく、その時間単価は俺の比ではない。黄金よりも貴重な時間を浪費させるわけにはいかず、万全の後方支援をするのが政府やギルドの仕事である。
なので、俺に流れ弾が飛んできた。
「お前の所、『火龍の塒』攻略の準備していたよな? 後方支援も出来るよな?」といった具合である。
「あのレベルの冒険者であれば、専門のバックアップチームが居るのではないかな?」
「そりゃ、いますよ。
けど、彼らは『火龍の塒』は範囲外で、普段の仕事もあります。ダンジョンが違うんだから、そのダンジョンに合わせたチームだって用意しますよ」
「ブルーサラマンダーはともかく、レッドサラマンダーを何度も狩っている冒険者チームもありますよね。彼らが動けば問題ないのではありませんか?」
「1チームだけに後方支援を依頼するって訳じゃなくて、複数チームの合同依頼になってますよ。露払いも仕事のうちなので、人手はいくらあっても構わないそうです」
話を聞いた四宮教授と及川教授の質問に答える。
二人はこの程度の解答ぐらい自分の頭で導ける人だけど、分かっていない奴もいるだろうからと、あえて言葉にして聞いたのだ。
内容はどうでもいい事なんだけど、この次の話題のためにも共通認識を持っておきたいのだ。
「まぁ、そんな訳で、今回の話し合いは『どこまで情報を表に出すか』です」
はぁ。面倒臭い。
「当たり前ですけど、万華鋼装備は封印で。外の連中に見せるつもりはありません」
「当然だね!」
「勿論です」
複数の冒険者と組んで仕事をするのは、一度引退してからだと初めてである。
そういった事もあって、話し合いを十分にしておく必要があった。
冒険者として中堅レベルだった昔は良かった。
どんな手段を見せた所で、そのほとんどは大して秘匿する価値のない、ありふれた手段でしかなかったからだ。
見られた所で、ネット上に落ちている情報と大差なく、隠す意味が無い。
現代社会は情報の拡散と共有が早いのだ。
しかし今は隠しておきたい秘密を多数抱えている。
それに、その存在をオープンにしているが光織たち三人娘だって同行させたくないぐらい、機密の塊なのだ。
上位の冒険者だって、あの三人であれば欲しいと言い出しかねず、下手をすると国のお偉いさんを使って圧力をかけてくるんじゃないかと疑っていた。
他人から聞いた情報ではなく、自分の目と耳で知った生の情報を得てしまえば、その価値に気が付いてしまう。話を詳しく聞かず断っているが、今だってあの三人を売って欲しいと言っている奴は大勢いるのだ。
「あの三人は連れて行かないと拙いでしょうが。タイタンを増やし、そちらに注意を向けますか? 幸い、タイタンを大量投入する大義名分もありますし、経費を請求しても、ケチられたりはしないと思います」
「やっぱり、あの三人を隠すのは拙いと思います?」
「はい。隠す事で、より注意を引く可能性は高いでしょう」
「それよりも、他の冒険者に戦闘のほとんどを任せてしまっても良いのではないかね? 予備選力という位置づけで、最低限の報酬で楽をさせてもらうように交渉するのも手段だとは思うのだよ」
「はぁ、面倒臭い。ラノベみたいに、いきなり現地集合とかやってくれれば良いのに。
これ、絶対に揉める奴だ」
なお、これに参加する冒険者は、事前に集まってダンジョン攻略の打ち合わせを行う。
入念な攻略計画をするのは当然。さすがにモンスターの出現頻度などはコントロールできないが、それでも経験からおおよその傾向は掴めるし、どのタイミングで誰が迎撃するかも含め、きちんと話し合いをしておかないと、あとで絶対に揉める事になる。
複数の冒険者が合同でダンジョンに挑むのは、そういう話し合いが本当に面倒臭い。
報酬を公平に支払ってもらえると分かっていても、どの程度の戦力を出すかで配分が変わるだろうから、参加者の本気の度合い次第では話し合いの段階で揉める。
こういう事があるから、誰もが普段は身内でしか挑まないのである。
金銭関係は、本当に問題になりやすい。
また、物資の買い付けは政府が担当するので、誰が何をどれだけ持ち込むか、そういった話し合いもする。
そこで予想されるのは、他人のお金で物資が準備されるのならと、ここぞとばかりに他のチームがお高い物資を要求しするため、前に出たがるパターンだ。慣れたダンジョンなら大してリスクもないだろうし、張りきる奴らも多そうだ。
上位の冒険者に顔をつなぐチャンスでもあるから、自己アピールがウザい事になるな。きっと。
あ。でも、それなら。
「たくさんの冒険者が参加するわけだから、俺が不参加でも問題ないとか、そういった流れになる事を祈っておきます」
「ああ、そういった流れもあり得ますね」
「ダンジョンの難易度からいっても、2チームも雇えば過剰戦力なのだよ。よほど生活担当のチームを増やさない限りは、と注意書きは必要だけどね」
「こんなに人数は要らない」と、上が考える可能性もあったな。
予算が青天井だろうと、安く抑えられるに越した事はないのだし。
……だったら良いなぁ。




